コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第54回 大分県

2003/12/01 20:29

週刊BCN 2003年12月01日vol.1017掲載

 他府県よりも県内情報ネットワークの整備が遅れていた大分県。急ピッチで県内を網羅する情報ネットワークの整備を進め、今年4月に「豊の国ハイパーネットワーク」の運用を開始した。インフラの利活用に向けた取り組みはまだ準備段階で、具体的な活動は見られないが、地域の情報格差解消に焦点を当ててインフラ利用策を詰めていく考えだ。また、電子自治体に向けて県主導で「電子自治体推進協議会」を設置。電子申請システムなどについて共同研究を行い、全市町村で共通のシステムを構築する動きがみられる。  一方、大がかりな市町村合併が予想されるとあって、ITベンダー間で自治体システム案件の獲得競争が激化することになる。(木村剛士)

ようやく緒についた情報ネットワークの利活用 地域の情報格差解消が焦点

■03年4月、「豊の国ハイパーネットワーク」スタート

 大分県でも他府県同様に、情報インフラの整備にまず着手し、県内情報ネットワーク「豊の国ハイパーネットワーク」を整備し今年4月に運用を開始した。大分県の全ての行政システムがこのネットワークを利用して稼動しており、県内の市町村とも接続済みだ。

 蒲原学・大分県企画文化部IT推進課参事兼課長補佐は、「県内の情報ネットワーク整備は他府県よりも遅れていた。『豊の国ハイパーネットワーク』の整備が急務だった」と説明する。そのため、利活用に向けた取り組みは「どのように活用すれば良いかを今後詰めていかなければならない」(蒲原参事兼課長補佐)段階にある。

 九州地方の県では共通の悩みではあるが、大分県では特に面積が広いことから、都市部と山間部との情報格差が激しい。それだけに、都市部の総合病院と山間部の診療所を結ぶ医療診断支援システムなど、地域格差解消のための住民サービスに重点を置いて取り組んでいく考えだ。さらに「民間企業が利用できるような仕組みを検討している」(蒲原参事兼課長補佐)と、「豊の国ハイパーネットワーク」の民間開放も視野に入れていくという。

 携帯電話や民放テレビ、ケーブルテレビ(CATV)などの情報関連サービスの基盤整備促進にも力を入れる。情報通信格差の解消策の1つとして、ケーブルテレビが挙げられる。現在、その普及率は約40%と低いことから、過疎地、山間部をはじめとしてサービスのエリアを広げていくためにケーブルテレビ事業の支援を積極的に行っている。

 主要都市の大分市、別府市でも市内情報ネットワークの整備をようやく終えた段階。市内小中学校や出先機関をネットワーク接続し市内各所にキオスク端末の設置などインフラを整えたが、秦崇彰・大分市企画部総合企画課情報推進室主事も松本弘次・別府市総務部情報推進課地域情報係主任も異口同音に「活用施策はこれから」としており、取り組み具合は県と変わりない。

 別府市は、今年度でIT化推進のための3か年計画が終了する。インフラ整備に重点を置いた計画だっただけに、「来年度からの計画で、住民サービスと民間企業支援を中心とした計画を立てる」(別府市の松本主任)と、来年度から本格展開していく予定だ。

■ベンダーは合併特需に期待

 電子自治体の共通基盤実現に向けた施策では、大分県が主導して「電子自治体推進協議会」を設置。県と県内58市町村のすべてが参加して、情報システムの共同研究と開発を進めている。具体的には電子申請および電子入札システムの共同開発が進行中だ。

 財政状態が厳しい中、各市町村の情報システム構築に関するコスト削減と開発効率化が狙いだが、今後行われる市町村合併を見据えている側面もある。

 大分県の市町村合併は、現在合併協議会が15団体設置されており、そのうち10団体が県の重点支援地域に指定されている。合併が他県に比べて急速に進むと予測される中で、ITベンダーは市町村合併による自治体特需に意気込みを見せている。

 大分県内の自治体システムのシェア争いは、NECと富士通が一騎打ちの状態。NEC大分支店の日野公介支店長は、「合併に向けたシステムの再構築事業だけでなく、住民サービスなどの利活用に向けたソリューションの提案も行っていき、価格ではなく、付加価値の高いソリューション提案で差別化を図る」と話す。富士通宮崎支店の天井信夫支店長も、「合併後は自治体の数が減少し、ビジネスボリュームも減る。合併案件を取ることは、一時的な売り上げだけでなく、長期的にみても大きなビジネスとなる」と、合併に向けた意気込みは熱い。

 両社ともに、合併案件が本格的に動き出してきた場合は、グループ会社との連携とともに、地場のITベンダーとの協業でビジネスを展開する体制を整えており、人材不足を補う考えだ。

 大分県には、県がIT関連の企業誘致を進めてきたことから、大分市内にITベンダーが約30社ほど集まる「大分ソフトウェアパーク」がある。大分県内の主要ITベンダーがここに軒を連ねる。「立地的な面から各地場企業との連携が取りやすい環境なので、協業体制が築きやすい」(NECの日野支店長)メリットを生かしていけるのも大分県の特徴の1つだという。


◆地場システム販社の自治体戦略

富士通大分支店

■要員不足には万全の体制で臨む

 大分県庁の基幹システムを手がけ、大分県内58市町村の中、18市町村の基幹システムを手がける富士通大分支社。全売り上げの約6割を自治体ビジネスが占める。

 天井信夫大分支店長は、「大分県庁をはじめ、自治体は当支店にとって最大の顧客。これまでの実績をもとに、顧客に対して“安全・確実”をアピールしていき、現在のシステムを引き続き手がけていくことが大前提」と語る。

 また、「医療や学校分野は多少伸びてきてはいるが、流通や製造業などの民間需要は相変わらず期待できない」としており、大分経済の落ち込みが続くことからも、自治体ビジネスへの期待は高い。

 大分県には、現在15の合併協議会が設置されており、準備が進められている。それに合わせて、情報システムの再構築案件も急速に出てくる。

 競合他社との価格競争による利益率低下は深刻な問題だ。しかし、自治体案件に頼らざるを得ない状況とあって、「大きなチャンス」(天井支店長)と、これからの合併特需に対する期待は大きい。

 天井支店長は、「合併案件は一定期間に集中する。競合他社は要員不足に悩むのではないか。しかし、当社は富士通大分ソフトウェアラボラトリ(富士通OSL)など、複数の富士通グループが県内に拠点を構えており、人員で他社を圧倒する」と、人員体制面での優位性を強調する。

 また、グループ企業との連携に加え、地場のIT企業数社と提携しており、要員不足時には共同でシステム構築を手がける体制を築いている。

 具体的に合併案件が進んでいけば、「万全の体制」(天井支店長)でシェア拡大に挑む。
  • 1