WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第184回 投資対ITパーフォマンス

2004/01/05 16:04

週刊BCN 2004年01月05日vol.1021掲載

 2003年春、長かった米国IT不況に若干の回復気運も感じられた時、権威ある経営誌『ハーバードビジネスレビュー』が、N.カール氏の論文「IT Does'nt Matter(ITはもはや重要ではなくなった)」を掲載し、経営におけるITの役割議論を世界的に巻き起こした。90年代後半からのネットブームに躍って米国企業はIT投資を増やし続けた。このため、00年以降世界経済が低迷し始めると、米国企業はIT設備過剰感が強くなり、この調整のため軒並みIT投資を減らした。企業がIT投資を減らしたのは統計的にも確かであったが、この投資額の減少ほどには企業が購入し続けたハード、ソフト、ITサービスがもたらしたIT処理パフォーマンスは減らなかったという数字が、米国経済統計局(BEA)より公表された。

米国経済統計局が発表

 BEAによると、96年米国IT投資は約3000億ドルだったが、これ以降のネットブームに沸いて、投資は年平均8.8%伸び、00年にその投資は4200億ドルまでに膨んだ。すなわち96年からの4年間の米投資は40%伸びたのである。しかし、この間にも技術革新が続き、ベンダー間競合も激しくなってコストパフォーマンスは上昇の一途をたどった。この結果、00年のIT投資額は96年対比で40%しか伸びなかったが、この年企業が購入したITパフォーマンスは、96年当時の購入パフォーマンスからは倍近くの96%も伸びたのである。すなわち96年から00年までの4年間に平均して年9%も同一金額当たりのパフォーマンスが向上した。

 これは96年に仮に1台1000ドルしたパソコンが、97年には919ドルで買えるようになったことを意味する。従ってパフォーマンスが向上したことで、たとえ企業が少々投資を減らしても、その年に購入したITの総パフォーマンスは大きく伸びはしなかったものの、大きく減ることもなかった。BEAも01年から米IT投資は年平均約5%減少して、02年その投資は4000億ドルに落ちたという。しかし、02年のIT投資がもたらしたパフォーマンスは、96年購入ITパフォーマンスを1ドル当たり1として計算すると5880億ドルになった。

 また、単価当たりのパフォーマンス向上によって02年に企業が4000億ドルで購入したパフォーマンスは、約5700億ドルに相当した。技術革新が同じペースで進み、さらに競合激化による価格低下を考え合わせると、企業投資の落ち込みで懸念されるほど、購入パフォーマンスは落下しないのである。これらでBEAは次のようなことを主張したかったのであろう。「景気低迷で見かけ上の企業IT投資が減ったとしても、これで経営者が経営におけるITの役割を軽視し始めた証として利用することには納得できない」もちろん政府機関としてBEAは、民間の論議にいちいち口をはさむことは避ける。BEAの意向に関して、「BEAはIT否定論にも人々が耳を傾け始めたころあいを見計って、あえて投資によるパフォーマンス購入数字を公表した」と、米アナリストの1人は解説する。(中野英嗣●文)

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