企業のIT調達モデルを変える デルの挑戦と死角

<企業のIT調達モデルを変える デルの挑戦と死角>12.デルの持たざる強み

2004/03/22 20:43

週刊BCN 2004年03月22日vol.1032掲載

 前号では、デルが大型(パソコン)サーバーの製造販売を中止し、小・中型サーバーに専念する背景では、IT基盤の形態がスケールアウト型(サーバーの台数を増やすことでシステム全体の性能、可用性を高める手法)へシフトしていると述べた。1つのラックマウント筐体に6枚から24枚の薄型サーバーを差し込み、集積度を上げる「ブレードサーバー」などもスケールアウト型を後押しする。IDCジャパンによれば、ブレードサーバーの国内出荷台数は2003年第1四半期、わずか2500台程度だったが、07年には台数ベースでサーバー市場全体の20%を占めるようになると予測する。(坂口正憲(ジャーナリスト))

 スケールアウトを前提とした小・中型サーバーに求められるのは、堅牢性と価格である。過剰な付加価値は要らない。これはデルが得意とする分野だ。確かに、デル以外のコンピュータベンダーは総じてデルに対抗して、積極的に製品価格を下げたり、低価格機種を投入したりしている。NECでさえ5万円を切る機種を発売している。ただし、デル以外のベンダーはすべてメインフレームやハイエンドUNIX機を製品ラインアップの頂点に持つ。単価も利益額も小・中型サーバーと桁が違う。IT業界の常として、上位機種から下位機種まで幅広い製品ラインアップを持っていても、まんべんなく売れることはない。営業担当者のマインドとして常に上位機種を売ろうとするからだ。

 前号で紹介したイー・トレード証券は、数台のハイエンドUNIX機を大量のパソコンサーバーへ切り替え、ハードのコストを10分の1に削減したが、ベンダーやその代理店の営業担当者にこのような提案は難しい。そこでベンダーは、付加価値の高い製品は営業担当者や代理店、コストをかけられない普及価格帯製品はウェブ直販とチャネルを区分けしようとしている。しかしながら、そう理想通りには進んでいない。ウェブ直販に力を入れる日本ヒューレット・パッカード(日本HP)でさえ、販売台数全体に占めるウェブ直販の比率は5%程度である。NECや日本アイ・ビー・エム(日本IBM)などの実績は推して知るべしだ。結局、豊富な製品ラインアップと強固なチャネルを持つがゆえに、デル以外のベンダーの動きは常にワンテンポ遅れる。これがデルの“快走”を助ける。
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