WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第197回 AVに参入しないIBM

2004/04/05 16:04

週刊BCN 2004年04月05日vol.1034掲載

 IBMサム・パルミザーノCEOは、米国有力ITベンダーのデジタルテレビなどAV(音響・映像)市場への参入に関し懐疑的見解を述べている。パルミザーノ氏はIBMのCEOに就任した直後から、「ITがどこでも使えるパーベイシブコンピューティング時代は間違いなく近いうちに到来する。しかし、IBMがテレビなどAV市場へ参入することはあり得ない。IBMブランドでテレビを発売しても、ソニーやパナソニックブランドに勝てるはずがないからだ。その代わり、IBMはAVの基幹半導体技術で中枢の地位を確保するために、日本ベンダーとの協業を強化する」と再三発言していた。

競合ベンダー参入に懐疑

 このパルミザーノ戦略の第1弾がソニー、東芝と共同開発した次世代AVの基幹プロセッサと期待される、「Cell」だ。こうしてパルミザーノCEOは、ITベンダーとしてAV市場と一定の距離を置く戦略を貫いた。これに対しIBMの競合ベンダーであるデル、ゲートウェイ、モトローラ、そしてエンタープライズ市場で真正面からぶつかっているHPまでが次々とAV市場へ参入した。デルのAV参入時には発言を控えていたパルミザーノCEOも、HPの参入表明以来、この動きを強く批判するようになった。

 その理由に関し同CEOは、「われわれITベンダーにAVを手掛ける力はないからだ」と前置きして、IBMがエンタープライズを中心とするIT市場に専念する方針を次のように語り始めた。「IBMはエンタープライズベンダーであり、われわれにはAVビジネス基盤はない。IBMはこれからもIT専業として真っしぐらに突き進む」と、次のように続ける。「エンタープライズはすでハイテクの中で大きな市場を形成しており、これからも顧客の求めにITベンダーが応じられれば、市場はさらに大きく拡大する。IBMモデルはこれからもエンタープライズIT中心で揺らぐことはない。当ビジネスは単純な価格競争も起きにくく、利益率も高く、株主価値を増大させ続けられると確信している」

 一方戦略をパルミザーノCEOから懐疑的にいわれるHPのカーリー・フィオリーナCEOは自社AV戦略について次のように強調する。「HPはホームエレクトロニクスから大企業エンタープライズまですべてのハイテク商品を手掛ける方針で、これが当社のIBMとの大きな差別化ポイントだ。HPはデジタルホーム実現にも注力するが、これはIT市場で小企業からエンタープライズまでの広い領域を手掛けたことと同じベクトルである」パルミザーノCEOはフィオリーナCEOの発言に次のように反論する。「ITとコンシューマエレクトロニクスのビジネスモデルは戦略的に考えても大きな違いがある。AVビジネスモデルを修得しても、エンタープライズシステム構築に役立つノウハウを身につけられない。IBMは競合他社がホーム市場に経営資源を振り向けている間に、より大きなエンタープライズシェアを獲得し、顧客満足度を高める。これが、ITベンダーとしてのIBMの役割だ」(中野英嗣●文)

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