変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第10回 セイコーエプソン 新機軸の製品投入を目指す

2004/08/02 20:43

週刊BCN 2004年08月02日vol.1050掲載

 セイコーエプソンは今年4月、2007年度(08年3月期)までの会社の目指す方向を示した中長期基本構想「SE 07」を策定した。この構想では、既存のデバイスや完成品を融合し、新規事業分野を見いだす「デジタルイメージイノベーション」と呼ぶビジョンを掲げている。中核製品のプリンタで、パソコンを使えないユーザーでもデジカメとプリンタを直結し画像をプリントできる製品を投入するなど、製品ラインアップの見直しと販売・流通網の再構築が進む。同社の製造・販売を担うエプソン販売は、「顧客にフィットする製品を的確な場所で売る」(真道昌良社長)と、マーケット拡大を目指し新たな展開を模索している。(谷畑良胤●取材/文)

総合スーパーで販売も模索

■新たなビジョン実現へ「3i」戦略を展開

 セイコーエプソンが中長期基本構想「SE 07」で打ち出したビジョン「デジタルイメージイノベーション」を実現するため、「3i」と呼ぶ戦略を展開している。

 1つ目は、携帯電話向け液晶ディスプレイを中心に業績が好調に推移するデバイス間の連携や複合化で提案型の高付加価値ソリューションを提供する「i0(イメージング・サポート・デバイス)。完成品関連では、画像と映像を中核とした「i1(イメージング・オン・ペーパー)」(プリンタからの発展)、「i2(イメージング・オン・スクリーン)」(プロジェクタからの発展)、「i3(イメージング・オン・グラス)」(ディスプレイなどのデバイスからの発展)の3つ。

 デバイスと完成品の各事業分野それぞれの強みを生かし、開発、製造、販売を効率良く融合させ、新たな市場開拓や新機軸の製品を生み出そうとしている。

 現在、セイコーエプソンの完成品のうち、主力製品であるプリンタ、スキャナ、液晶プロジェクタなど情報関連機器の販売を担うのが関連会社のエプソン販売。「ITの一般化を目指し、広く浸透させる」(エプソン販売の真道社長)と、ここ1、2年で同社の販売・流通網を改革している。従来の大手パソコン量販店だけでなく、総合スーパーや文具店など、家族で訪れる率の高いショップをターゲットに販売チャネルを再構築しているという。

 真道社長はその理由について、「例えばプリンタは、パソコンを介さず直接デジカメを繋げてプリントできる『直(ちょく)プリ』型のものが主力になり、主婦でも気軽に使える製品が増えた」と、主婦が立ち寄る総合スーパーなどへ、販売網を拡大する計画だ。

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■需要掘り起こしで、新規チャネル開拓へ

 エプソン販売の販売・流通網は現在、大きく4つに分かれる。1つは、SOHOや中小企業の購入実績が伸びている郊外型のヤマダ電機やコジマなどの量販店、ヨドバシカメラやギガスケーズデンキなど都市型の量販店など、全国の主な量販店100社に対して直接卸販売をする大手量販店チャネルがある。

 ビジネス向け販売専門では、大手メーカー系システムインテグレータや大手ディストリビュータの大塚商会のほか、事務機ディーラーや文具卸など訪問販売のチャネル約2000社を使って販売している。

 上記の2つのチャネルで賄えないコンシューマ向けの小型量販店とビジネス向けの一部企業ユーザーに対しては、大手ディストリビュータチャネルとして、ダイワボウ情報システム(DiS)や丸紅インフォテックなどのチャネルがある。4つ目のチャネルとしては、関連会社の「エプソンオーエーサプライ」がウェブ直販を中心に、一部システムインテグレータや大手ディストリビュータへの間接販売で、消耗品やサプライ品と合わせて完成品を卸・販売している。

 このうち、主に訪問販売とディストリビュータのチャネルでは、エプソンダイレクトが提供するBTO(受注生産方式)パソコンを流通させている。

 エプソン販売の真道社長は、「家庭用のプリンタは飽和状態にあり、新たな需要の掘り起こしが必要。ニッチなニーズに応える製品のラインアップを増やすと同時に、既存のチャネルと一緒に総合スーパーなどに販売網を拡大したり、コンシューマ製品を訪問販売するルートも探りたい」と、新規チャネル開拓に積極的だ。

 エプソン販売は9月にも、売り上げが好調な複合プリンタに新製品を投入する予定で、「プリンタ市場に一石を投じる」(同)というだけに、製品展開に合わせたチャネル開拓の再構築が急務となっている。

■ビジネス市場向けにBTOパソコンを供給

 セイコーエプソンのパソコンの製造・販売は、1993年に設立された関連会社のエプソンダイレクトが、ウェブ注文中心にBTOパソコンを販売。主なパソコンとしては、ビジネス仕様の「Endeavor(エンデバー)シリーズ」とコンシューマ向けの「EDi Cube(エディキューブ)シリーズ」を出している。ユーザーはパソコン歴の長い“パワーユーザー”がほとんど。「推奨モデルはあるものの、OSやチップセット、メモリ、カラーバリエーションなどを組み合わせると100万種類のBTOパソコンが作れる。実際に販売されているのは100%がBTOパソコンだ」(エプソンダイレクトの吉崎宏典・取締役)と話す。

 エプソンダイレクトが販売したBTOパソコンは、昨年度(04年3月期)の実売で約24万台。このうち、3分の1はエプソン販売のチャネルで販売された。残り3分の2のうち、エプソンダイレクトのウェブやコールセンターからの注文販売が55%、残り45%が法人営業担当が直販中心に従業員10-100人クラスの企業の注文を獲得している。

 実は、法人営業部門では、コンプマート全店と東京・秋葉原のラオックスのザ・コンピュータ館に実機を置いて、店頭でBTOパソコンの注文を受け付けている。さらに、東京・秋葉原にも同社直営店「エプソンダイレクトプラザ」にショールームを開設し販売も行っている。

 エプソンダイレクトの吉崎取締役は、「コンプマートのパソコン販売台数では、富士通とNECに次いで実績を上げている。注文を受けてすべてを国内で組み立てる手法や品質の高さがユーザーの評価を得ている」と自負しており、今後は競争が激化しているノートパソコンの市場を伸ばしていくという。

 セイコーエプソンの03年度(04年3月期)連結決算は、携帯電話向け液晶ディスプレイを中心に電子デバイス事業が伸び、売上高が前年度比24.5%増の1兆4140億円となった。しかし、情報機器の中核であるプリンタなどの製品は、単価下落や市場の飽和状態から横ばいだった。情報関連機器を伸ばすうえで、ニッチな需要を開拓する新たな製品だけでなく、需要をつかみ強力に製品を市場に届ける販売・流通網の整備は欠かせなくなってきている。
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