拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略

<拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略>第21回 造り酒屋の宮﨑本店編(1)

2004/09/06 16:18

週刊BCN 2004年09月06日vol.1054掲載

 酒蔵の宮﨑本店は、三重県鈴鹿連峰から湧き出る豊富な地下水を使用して清酒、焼酎、みりんを製造する三重県最大の造り酒屋。本社のある楠町は、三重県の北勢部に位置し、明治から大正にかけて34軒の造り酒屋が立ち並ぶ酒造りの盛んな土地だった。しかし現在は、唯一宮﨑本店を残すだけとなっている。「当社は昔から『革新』を続けてきた」と、IT担当の美濃部浩一郎・営業部業務課課長は、同社が生き残った理由について歴史を紐解き説明する。

「革新」の社風がIT戦略にも波及

 宮﨑本店の創業は1846年。現在の宮﨑由至社長で6代目となる老舗の造り酒屋。代表作の清酒「宮の雪」は、全国で味わうことができる。「革新」の代表事例は1930年に、当時は同業者の誰もが反対した高価な「連続式蒸留機」を設置したことにも表れている。これにより、新しい製法による新機軸の焼酎が生まれ、業績向上につながった。こうした宮﨑本店の「革新」は、IT戦略の系譜にも垣間見れるのだ。今から約20年前。宮﨑本店は財務、材料管理など業務改善に利用するため、当時はほとんどの酒蔵が見向きもしなかったオフコンをいち早く導入した。当然、社内に数字を打ち込むオペレーション担当がいたが、保守・サポートはすべてオフコンディーラーに任せていた。その後、クライアント/サーバー(C/S)型にシステムを再構築する3年前までに、2回のリプレースを実施した。

 95年にはウィンドウズ95が登場し、宮﨑社長や社員の考え方が一変する。「今まで、営業担当者がFAXで受発注伝票を送っていたが、これをメールで代替したら…」。社内の声を受け宮﨑社長の“鶴の一声”で、96年から、楠町本社と東京支店に1台ずつパソコンを置き、電子メールを使った伝票処理を試験的に開始した。その後、パソコンを通じた伝票のやり取りとオフコンが並存する状態がしばらく続いたが、3年前にオフコンの再リプレース時期を迎える。ちょうどインターネットの利用が当たり前になってきた時期。すでにパソコンでのやり取りを経験していた宮﨑本店は、オフラインであるオフコンのさらなるリプレースに疑問をもつ。そんな折、複数のITベンダーから、ダイレクトメールが届いた。

 いずれも「酒税法に対応した業務パッケージがある」という案内。宮﨑本店は早速、訪販系ベンダー、パッケージベンダー、システムインテグレータの3社から、システム再構築の提案書を取り寄せた。最終的には、システム価格の最も高い提案を除き、残りの2社の提案をコンペにかけた。採用されたのは、同じく酒造りが盛んな土地から生まれ、造り酒屋に特化したソフトを持つシステムインテグレータの提案だった。(谷畑良胤)
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