拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略

<拓け、中堅・中小企業市場 事例に見るSMB戦略>第23回 造り酒屋の宮﨑本店編(3)

2004/09/20 16:18

週刊BCN 2004年09月20日vol.1056掲載

 造り酒屋の宮﨑本店自慢の「革新性」は、関東大震災の時から一躍世に知られるようになった。三重県楠町一体にあった30件余りの造り酒屋はこぞって、震災直後に取り引きのあった東京都内の販売店に行き債権回収に走った。だが、宮﨑本店の先代社長は債権回収をせず、逆に販売店向けに支援物資を海路送ったという。

酒造場の生産工程もIT化へ

 現在の宮﨑由至社長は、「当社は販売店あってのもの。創業以来この方針は変わらない」との意思を貫き、周囲の造り酒屋が倒産していくなかで、唯一「勝ち残った」。その宮﨑本店が今年3月、自社の日本酒や焼酎、みりんをウェブで販売するサイトを立ち上げた。「販売店を軽視するような施策だが、実はそうではない。販売店が及ばない地域に当社商品を知ってもらうきっかけを作るのが目的」と、このサイトを考案した1人でもある美濃部浩一郎・営業部業務課課長は経緯を説明する。商品が知れ渡れば、その地域の販売店との提携が進むと見ての“船出”になったという。

 宮﨑本店は2000年、石川県小松市に本社のあるシステムインテグレータのティー・エス・アイ(TSi)に発注して、TSiの造り酒屋向け業務管理ソフトウェア「酒仙」を全社的に導入した。商品の出荷が急激に増えた2年前には、酒仙をバージョアップして拡張性を高めた。「商品の在庫や出荷実績など、データ管理基盤が整った。データ分析が容易になり、販売会議などでは、地域や季節などに応じた消費予測を出し出荷体制を組めるようになった」(美濃部課長)ことで、ITが戦略的に利用できるまでになったと評価する。

 今は、伝統的な手法が残る醸造現場の生産工程と、酒仙を連動させた新システム導入の検討を開始した。

 「大量の発注があった場合、前もって生産量を増やすことが可能になる」(宮﨑社長)と、給水や発酵といった工程をITでコントロールする「革新」を追求しようとしているのだ。今年9月初旬、大型の台風16号により、楠町一体が停電に見舞われた。この時、SQLサーバーが停止し再起動に手間取ったため、酒仙を導入して以来、ほとんどのIT保守を任せているTSiのシステムエンジニア(SE)が急きょ訪れてメンテナンスを行った。生産工程の新システムの件は、すでにTSiに相談を持ちかけている。経済評論家の大前研一氏が「俺はこの酒しか飲まない」と、言って憚らない宮﨑本店の日本酒「宮の雪」。こうしたIT再構築で、伝統的な“酒造り”をどこまで改革できるかに注目していきたい。(谷畑良胤)
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