総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って

<総IT化時代の夜明け SMBの現場を追って>13.マイスター(上)

2005/01/31 16:18

週刊BCN 2005年01月31日vol.1074掲載

 図形や絵柄、地図といったイメージ画像を奇抜なアイデアでビジネスに結びつけているソフト開発ベンダーが北海道函館市にある。マイスター(瀧浩幸社長)だ。同社は、防災地図や野球のスコアボードなどの業務システムを得意のイメージ画像に関する技術を駆使して次々と事業化した。

図形や地図などをアイデアで事業化

 防災地図の事例では、市販の地図よりも安く国土交通省国土地理院が販売している数値地図(ベクター地図)や、マイクロソフトの画像加工用パッケージソフト「ビジオ」など、既存の素材をうまく活用して、安価で使い勝手の良い製品に仕立てた。

 これまで防災地図など業務で活用する地図は、大手ベンダーが販売している高価な「地理情報システム(GIS)」を使うケースが多かった。GISの価格は高いもので数千万円から数億円する。これに対し、マイスターの防災地図はこうした従来型のGISシステムのコストの数十分の1で開発した。実際の業務に使えることを証明するため、2003年11月にはこの防災地図を地元の函館市に寄贈した。

 函館市は「函館市防災マップ」と名付けてウェブ上で公開。同マップでは、地震や津波、水害などそれぞれの自然災害に対応した避難所や関連施設などを掲示している。地震であれば、耐震補強などを実施している避難施設が明示され、津波の場合は高台の避難地や施設が表示される。

 市民は自宅のパソコンなどから函館市防災マップを参照し、自宅や職場付近の避難スペースを予め確認でき、災害発生時にはより迅速な対応が可能になる。

 函館市では、避難所などが増えたりして変更になった場合は、情報を随時アップデートし、市民への周知に努めている。函館市防災マップを担当する河瀬宏之・函館市総務部総務課主事は「役立っている」とし、今後とも運用を続けていく方針を示す。

 全国の自治体では、防災地図に加え、上下水道管の配置を記した地図や都市計画に使う地図など、さまざまな地図が使われている。自治体のなかには、担当の部門がそれぞれの使い方や予算に基づいて個別に地図を購入してきたため、結果的に「似たような地図を重複して購入している」(自治体関係者)と経費の無駄を指摘する声があった。

 函館市では、現在のところ防災、水道、都市計画などの各部門で個別の地図を使っているが、「情報システム全体の最適化、効率化は重要」(川浪幸一・函館市総務部情報システム課長)と、全庁で共通して使える地図がより望ましいと考える。こう考える自治体は少なくないものの、従来型のGISでは大がかりなもので、価格も非常に高く、導入の障害になるケースが多かった。

 マイスターが函館市に“寄贈”できたのは、開発コストを極力抑える手法を開発したからこそ。仮に従来型のGISのように1000万円単位の開発費がかかるとするならば、社員数わずか12人のマイスターでは無償での提供はできなかった。

 国土地理院では電子化した地図の販売を98年頃から本格的に始めている。これは地図作製の基盤になるもので、いわば白地図に近いもの。そのままでは業務に使えない。この地図に、用途に応じた情報を書き込むことで、業務に役立つ地図にする。この書き込み作業にマイクロソフトの画像加工ソフト「ビジオ」を採用した。

 函館市に寄贈した防災地図のケースでは、ウェブ上にも地図を公開している。このため国土地理院のベクター地図をビジオに取り込み、防災情報を地図に書き加えたあと、さらに一般のウェブブラウザで閲覧できる形式に変換する必要がある。マイスターでは、ビジオへの取り込みの部分と、ウェブブラウザへの展開の部分について、オリジナルのソフトウェアを開発した。ウェブブラウザへの展開ではSVG技術を使った。

 SVGは「スケーラブル・ベクター・グラフィックス」の略で、ウェブブラウザなどの技術に関する標準化を推進するワールドワイドウェブコンソーシアム(W3C)が01年に技術仕様を公開した国際規格。マイスターでは「SVGはイメージや画像を業務システムやウェブ上へ展開するのに欠かせない技術」(瀧社長)と予測し、瀧社長がマイスターを設立した00年当時から積極的にSVG技術をベースとした製品開発に尽力した。

 函館市防災マップの事例では、マイクロソフトが認定するパートナーの先進事例を表彰する「マイクロソフト認定パートナーアワード2004」のe-Japan部門最優秀賞を受賞した。また、SVG関連の案件では、その技術力を見込まれ「全国から注文を獲れるまでに成長した」(同)と、今後の事業拡大に手応えを覚える。次回は、野球のスコアボードなどの図形や絵柄、地図といったイメージを活用した先進ビジネスモデルを検証する。(安藤章司)
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