個人情報保護法で変わる“IT風景”

<個人情報保護法で変わる“IT風景”>1.特需の裏でマイナス面現れる

2005/02/07 16:04

週刊BCN 2005年02月07日vol.1075掲載

 個人情報保護法が完全施行されるこの4月に向け、企業は日ごと過敏になっている。「施行当初は社会的な関心も高まる。そこで個人情報の流出事件を起こせば、信用の失墜は計り知れない」(ソフトメーカー関係者)。

 同法の下で、企業は利用目的を明示しながら個人情報を取得し、利用目的以外に使われないよう適正・安全に管理しなければならない。その規定に違反すれば、監督官庁から行政指導を受け、最悪は罰則が課される。

 罰則の内容はそれほど厳しくないとしても、企業としては「情報管理がズサン」と社会から見なされるのが怖い。

 「振り込め詐欺」など新手の詐欺行為に、流出した個人情報が悪用されるケースが目立つ。個人情報に対する個人の防衛意識はかつてないほど高まっている。

 ある企業から数万件の個人情報が流出した事件が2002年に起こったが、「今でもファイル交換ソフトで名簿が交換され、誰でも入手できる状態。水面下で被害は続いている可能性もある」(業界関係者)という。

 ネット社会では、いったん洩れた個人情報の拡散を食い止めるのは技術的に難しい。

 そのため各業界の監督官庁は、同法を厳格に運用する構えだ。例えば、金融庁は個人情報を流出させた金融機関に対して、業務停止命令を出す構えで臨むといわれる。信用データは個人情報の中でも最も機密性が高い。

 それを受け、生保大手の第一生命保険が約250億円を投じて、事務系システムを刷新するといわれる。その他の金融機関も、指紋認証付きパソコンを配置するなど防衛策を講じるのに必死だ。

 個人情報の管理を徹底するにあたって、企業が真っ先に注目するのはITシステムだろう。大なり小なり、ITシステムの構築・運用方法は見直しを迫られる。

 それはIT業界に特需をもたらすと信じられているが、実は、マイナス面も徐々に現れ始めているのだ。「顧客情報を全社で共有しながら分析するナレッジシステムの導入が止まってしまった」(システム開発会社)。

 ITベンダーにとって、個人情報保護法は“光と影”の部分があることを踏まえておく必要がある。この連載では、同法が企業のIT活用、ひいてはIT業界に与える影響を追っていきたい。(坂口正憲(ジャーナリスト))
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