コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第8回 京都府

2005/05/30 20:42

週刊BCN 2005年05月30日vol.1090掲載

 千年にわたり日本の都が置かれた地・京都。今も、独自の歴史と文化を受け継ぐこの地では、企業文化にも独自性が感じられ、単純に「関西経済は全般に低調が続き」などと括れない面がある。東京とも、大阪とも異なる企業文化を有するだけに、「上手く活用できれば、新しいIT産業につなげられるのではないか」(京都府産業活力支援総括室)との期待もある。(光と影PART IX・特別取材班)

東京や大阪と異なる独自の風土と企業文化に強み

■下請け比率の縮小目指す

 有力企業の本社機能の東京流出が続く大阪に対し、京都に本社を置く企業にはそうした傾向は少ない。京セラ、ローム、島津製作所などの有力企業の多くは、京都という土地との関わりを重視しているように見受けられる。

 大学や研究機関が多く、良好な関係を維持していることも理由の1つ。だが、もう1つ見過ごせないのは、大阪の有力企業が家電などの最終消費者向けの製品を扱っているのに対し、京都の有力企業は機械や電子部品といった産業向けの製品を取り扱っている点。情報サービス産業に与える影響もおのずと異なる。ソフト開発会社が、制御など組み込み系ソフトの開発を受注するにしても、商品サイクルや開発期間、需要動向の性質などが違う。


 「ソフト会社が少ないこともあり、発注の7割は京都の会社が消化しているのではないか。売上高の伸びなども全国平均を上回っているはず」と分析するのは、バンテックの馬場喜芳社長。OAの業務系についても、「2007年問題」を踏まえ、販売・生産管理や販売・物流管理システムについて、中堅メーカーでも投資意欲が見られるようになっているとし、注力していく方針だ。

 人材不足については、ご多分に洩れず京都も慢性化しているが、同社は委託教育を受け入れてきたことも影響して、充足できるようになっているという。ただし、企業として現状に甘んじているわけにいかない。大手ベンダーの下請け的業務の比率を下げ、オリジナルの比率を高めることが、現在のテーマだ。

 「今は同業者や大手ベンダーからの仕事が7割で、オリジナルに近いものは3割。これをこの2年で5対5にしたい。ウェブカタログ営業支援システムやウェブ計測制御システムなどのネットワーク系を伸ばしたい」(馬場社長)と語る。さらに営業力をカバーするため、アライアンスも積極的に検討する。京都の自動化機器メーカーと組み、新たな生産管理システムの販売を進める計画だ。「技術者が育ったこととオープン化が進んだことで、これまでならできなかったことも可能になってきた」(馬場社長)と意欲を示す。

■人材難がオフショア化加速も

 ムラテック情報システムは、京都の有力企業の1つである村田機械の情報管理部とFAシステム部が分社化して誕生した会社。売上高ベースでは、約7割が村田機械グループ向けだが、「親の強みを生かすことが子の強みにもなる」(清水勲常務)として、生産管理システムをはじめとするソリューションをグループ外企業にも販売している。

 04年のゴールデンウィーク中にホストコンピュータを廃棄し、村田機械グループの基幹業務システムをウェブベースに転換した。これによりTCO(システム総保有コスト)を3割削減できたほか、約2年の移行期間を置いたため、COBOL系の技術者のスキルチェンジを図る余裕があった。「新しい事業分野を拡大するなら別だが、自社のフレームワークをもっていることもあり、技術者は充足できている」(清水常務)という。

 販売方法の変更と製品の絞り込みにより、「常時引き合いが入り、うまく回転するようになっている」(清水常務)。ただし、プログラミングは、昨年からすべてブリッジ会社を通じ中国などに発注するようになった。生産管理システムは、実務がわからなければ話にならないので社員が行う。しかし、エンジンなどのフレームワークが確立しており、周辺の開発ならば海外にもって行っても問題はないということだ。清水常務は、「国内ではコストが下がらないうえに、トラブルが発生したことがある。 それなら、直接グリップでき、信頼関係のある海外パートナーの方がいい」と指摘する。オフショア化を加速させる可能性があるという面からも、人材難は深刻な問題といえる。

 営業体制の強化に積極的で、顧客も京都以外の地域に多いという、京都の情報サービス産業にあってもユニークな存在であるのが、けいしんシステムリサーチ。元の親会社が倉庫業であったため、スーパーや量販店といった流通事業者向けの販売管理システムに強みを持ち、京都以外での事業展開を進めた経緯がある。現在は、トナミ運輸と日本ユニシスの2社が株主となっており、両社との連携を強化するなかで、事業強化を図るものとみられる。

 事業の柱の1つとなっている「システム21会計情報システム」については、環境の見直しを検討している。今年3月末で財務の再構築が完了し、資金面でも開発のための投資に余裕が出てきた。新バージョンのリリースに合わせて、マンパワーの強化も図る方針で、凍結していた新卒採用も来年4月入社から再開する。

 一方、トナミ運輸との連携では、トナミ運輸の提唱する物流と情報を一体化させた「システム物流」が切り口となりそう。「当社にとっても専門領域であり、トナミ運輸のノウハウも生かしたい」(出野信夫取締役管理部長)としており、同社がこれまで手掛けていたものより大規模なシステムをターゲットに想定しているとみられる。

 独自性を持つといわれる京都の企業文化。「アライアンス」などという言葉が使われるようになる前から長年実践されてきた結果といえるかもしれない。
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