コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第15回 広島県

2005/07/18 20:42

週刊BCN 2005年07月18日vol.1097掲載

 好調な経済活動が続く山陽道の中心、広島県。元気な企業が多いだけに、IT投資の意欲も旺盛だ。一方で、自治体などの公共関連はピークアウトし、次の需要期に向けた準備段階にある。双方に対応するためのキーワードは、大手と地元のタッグ。局面に応じた多様なタッグが予想される。(光と影PART IX・特別取材班)

大手と地元のタッグで IT投資の受注拡大狙う

■NEC、民間向け今期20%増狙う

photo 「東京や大阪を除けば、NECの事業の公共と民間の比率は7対3。しかし、中国は公共が6に対し、民間が4と高い。公共関連がピークアウトしたということもあるが、広島を中心に民間の比率をさらに高めたい」

 NECの矢野修・中国支社長は、民間需要の一層の開拓に熱意を示す。山陽ベルト地帯には支店を配置し、これまでも民間企業へのアプローチを行ってきたが、十分だったかというと疑問が残るという。昨春から担当する中国支社の活動を見てきて、広島を中心とした民間の潜在需要は大きく、開拓の余地はまだあると判断した。

 「この4月に民間の営業支援を、それまでの1班体制から製造と流通・サービスの2班体制にした。支店の営業は公共中心にならざるを得ない面があった。直接の民間開拓は支店が行うが、中国支社全体として、2本立てで民間をより強くしたい」(矢野支社長)と語る。

 実際、今年度の第1四半期は前年同期比で受注が13%の伸びを示した。すでに効果は現れている。「案件数も多く、通期では20%増を目指す。決して高いハードルとは思わない」(矢野支社長)と自信を示す。

 もっとも、民間開拓に注力するといっても、人的資源を投入するには制約がある。支援体制を整備しただけで万全というわけではない。その戦力として期待するのは、代理店などのパートナーだ。「地元のシステムインテグレータ(SI)やソフト開発事業者も、地元だけを見ているわけではなく、新しいビジネスに踏み出すために東京などでの事業を拡大させて、地元にフィードバックするようになっている。自らのビジネスを絞り込み、優先順位をつけるなかで、局面に応じ、それぞれの領域で強みを持つところと組むことで、双方にとってメリットを享受できるようにしたい」(矢野支社長)という。

 これは、公共関連についても同じだ。確かに、矢野支社長が指摘するように、中国地方の公共関連は需要が一巡した状態にある。このため、相対的に民間の占有率が高まっている面もある。公共関連には波があるが、矢野支社長は、「2006年度、07年度には、大きなプロジェクトが控えている。今年は公共関連の復活へ向けた布石づくりの年」と位置づけ、収穫を確かなものとする方針だ。

 NECにとって、中国・広島における課題はもう1つある。それは医療分野。300床クラスの医療機関については、パートナーもおり、実績を上げているが、大規模な医療機関には入れていないのが現状。もちろん「そのような状況に甘んじることはできない」(矢野支社長)。今後は、個別のシステムではなく、行政などとも関連する総合的なシステムが必要とされるようになる。公共関連の切り口、あるいは中国・広島での事例を他の地域に展開するなど、戦略上も重要な分野であり、ピンスポットを狙って、入念な検証も進められているようだ。

 大手ベンダーにとって、地方での事業活動には、地脈・人脈といった要素も見過ごすことはできない。自治体の中にも、「地元企業とのコラボレーションが必要」との方針を示すところが出始めている。とはいえ、かつてのような「ハードからソフトまで」というような関係は、大手ベンダーも地場の事業者も考えてはいない。局面局面に応じて、双方がベストなパートナーをチョイスし、それぞれのビジネスにプラスになるという関係だ。

■徹底した地元密着で安心感を

 県東部の福山市に本拠を置く三菱電機グループのビーシーシー(山本清美社長)は、グループ製品の受託開発が売上構成の35%を占めるが、民間向けSIも35%、自治体向けも30%とバランスのとれた経営を行っている。岡山県西部から広島県中部、南は香川県を営業テリトリーと定め、徹底した地元指向を貫いている。大坪正人常務は、「まず、売上高30億円超を達成し、三菱電機グループ内でのプレゼンスを高める。その上で、地域ナンバーワン企業を目指す」という。地元密着という安心感は、現在でも提供できているが、「地域ナンバーワンになれば、ユーザーの見る目が変わる」(大坪常務)ことを意識した戦略だ。

 もちろん、他社製品の販売も手がけているが、今後は自社の生産性を高める意味からも、オリジナルパッケージ商品の強化を進める。これを武器に、営業テリトリーの囲い込みを目指す。「マーケットが限られるため、民間向けは厳しい」(大坪常務)が、事業バランスの良さがこれをカバーする格好だ。

 自治体向けビジネスに関しては、三菱電機グループ以外の大手ベンダーとも組んでいく方針。「自治体向けは、実績もあり、幅広いアプリケーションを扱っている。特に水道システムには強みがあり、これを切り口にすれば、大手と組んでも、必ずしも主導権を握れないわけではない。場合によっては、地元に顔が効く当社の下に大手を組み込むこともあり得る」(大坪常務)とみている。すでに複数の自治体をターゲットに動き出している。

 自社パッケージの強化と並んで検討しているのが、データセンター構想。「ハイレベルな人材を確保する意味でも、事業を大きくする必要がある。現時点では、セキュア(安全)なデータセンターといっても、民間利用は厳しいかもしれないが、自治体からの受託拡大の可能性もある」(大坪常務)。投資も必要なため、安易には決断できないが、事業戦略上のポイントになるのは間違いない。

 このほかにも、独自の取り組みを行っている企業はある。スーパーマーケット向けシステムのリマックコンサルタンツは、製品提案をするなかで、下請け的業務からの脱皮が進み、今ではオリジナルが8割を占めるようになった。田淵信夫代表は「100億円規模の地域スーパー向けなら大手ベンダーにも負けない」と言い切る。広島県西部情報サービス協同組合の会員と共同で、県の補助金制度も活用し、新たな技術開発にも取り組んでいる。リスクヘッジをしながら技術力を高める工夫が、地域の情報サービス事業者に求められるということのようだ。
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