経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>11.武蔵野

2005/10/17 20:29

週刊BCN 2005年10月17日vol.1109掲載

 ダスキンの訪問販売サービスなどを手がける武蔵野(小山昇社長)は、アナログの良さとデジタルの効率性を巧みに組み合わせて顧客満足度の向上に努めている。サービス業は、営業や接客、サービス内容が顧客満足度を大きく左右する。武蔵野はこの特性を踏まえて、顧客に接する部分は人間味のあるアナログを多用し、顧客から見えないバックエンドは徹底的なIT化・デジタル化を推し進めた。アナログ部分は、あいまいさを極力排除して“デジタル並み”の精度に高めている。

デジタルとアナログの長所生かす

 1980年代、日本アイ・ビー・エム(日本IBM)のオフコンを導入して以来、バックエンド部分を中心に徹底したIT化を推進してきた。90年代以降は電子メールやボイスメール、グループウェアなど情報共有ツールを相次いで導入した。業務の効率化が期待できるITシステムは貪欲に取り入れ、徹底した合理化を進めてきた。こうした取り組みとは対照的に、顧客と接する部分はアナログを残し、敢えてコストをかけてきた。「接客でコストを削ると競合他社に負ける」(小山社長)からだ。

 ダスキンのフランチャイズ事業は、売上高の約7割を占める主力事業で、地域の家庭や企業を訪問して家事代行や清掃作業、レンタルサービスなどを手がける。家庭と企業の顧客数を合わせると約7万件に達する。しかし、引っ越しなどで5年間のうちに平均して約25%の顧客が入れ替わるため、営業活動による新規顧客の開拓は欠かせない。飲食店だけに限れば5年間で8割の経営者が入れ替わるといい、こうした顧客の動向をつかむための情報収集も営業活動の重要な要素となる。

 営業活動における接客や主力商材であるサービスを提供する部分で武蔵野は、意識的にアナログを大切にしてきた。顧客への接触は電子メールではなくハガキを送り、営業する時は電話ではなく直接訪問するなど「足で稼ぐ営業」(同)を基本に位置づける。アナログは人の感情を伝えるのに有効な手段であり、デジタルだけでは人の気持ちをつかむことはできないというのがアナログを大切にする理由である。

 アナログで業務を処理すると、あいまいな部分が残りやすく、約380人の従業員のなかでもあいまいさによる混乱が起きかねない。同社では、価値観の共有と言葉の定義を明確にすることで、アナログの曖昧な部分を極力排除する努力を積み上げ、デジタル並みの業務効率の高さを実践している。

 例えば、上司が部下に対して「○○を徹底する」という指示を出したとする。多くの組織では、徹底という言葉が意味する定義が個々人によってバラつきがあるため、徹底する内容にもバラつきが生じる。放置しておくと、いずれは顧客に対するサービスの品質にもバラつきが出る可能性もある。そこで「徹底する」という定義を「他人が見たら異常と思うほどの執念をもって、実行すること」と明確にした。「床掃除を徹底しろ」という指示を受けた社員は、人の顔が写るほど磨き上げ、他人が見たら「やり過ぎだ」と思うほどの執念をもって実行する。このことを理解すれば、上司も安易に「徹底」という言葉を使えないし、仮に使ったとすれば、本当に「徹底」することになる。

 他にも、「差別化」は「目で見て認識できる“差”を3つ以上揃え、ライバル企業が敬遠するまでやる」とするなど、合計で1300件近いビジネス用語の定義を行い、01年3月に「仕事ができる人の心得」(阪急コミュニケーションズ)として書籍にまとめた。このビジネス語録は05年3月には第9刷を発行する人気となった。

 言葉の定義を学習するため、月曜日から金曜日までの朝7時半から8時半までの1時間にわたって任意の勉強会を開く。社員を5つのグループに分けて、1回に1グループずつ勉強会に参加する。社員は週に1回程度の頻度で早朝勉強会に参加しており、「朝のラジオ体操のようなもの」(社員)と、ウォーミングアップ感覚で言葉の定義について学んでいる。これにより、上司は部下により的確に指示を出し、部下は言葉を明確に理解した上で顧客への営業やサービスの提供に励むことが可能になる。

 徹底したIT化によるバックエンドの合理化と、人の手によってサービスを提供するビジネスで欠かせないアナログの特性を巧みに組み合わせることで、無理や無駄のない引き締まった組織づくりに成功。顧客満足度を向上させた。小山社長のデジタルとアナログの絶妙な組み合わせの手法がITコーディネータ協会から評価され、ITコーディネータの普及啓蒙の活動を担う「ITコーディネータグランドファーザー」に02年、就任した。とかくデジタル一辺倒になりがちなコンピュータ業界にも参考になるケースだろう。(安藤章司)
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