視点

ウォークマンにみる「モノ至上路線」の限界

2005/12/05 16:41

週刊BCN 2005年12月05日vol.1116掲載

 先日、あるトレンド雑誌で携帯音楽プレーヤーの音質テストを行った。全部で10機種で、最高の音質はソニーの新型ウォークマンだった。アップル・コンピュータのiPodに対抗して、発売直前に値下げをして話題になった、あの製品である。ウォークマンの音の良さは、周波数帯域の広さ、音の余裕感、落ち着きなどで明らかだ。しかし、それだけでは、iPodの牙城を崩すのは大変難しいのではないか。

 なぜならば、iPodは今や、携帯の音楽再生機という枠をはるかに越え、社会的基盤を持つマルチメディア端末になっているからだ。本体と音楽コンテンツ整理ソフトiTunes、ネットサービスiTunes Music Storeの三つの要素が有機的に絡み合い、トータルなiPod世界を形成している。配信映像の再生に加え、世界中で放送局、新聞社、雑誌などから無数に配付される“iPodラジオ”も再生できる。授業内容をiPodに入れて学生に配る大学が世界的に増える……など、iPodはもはや単なる音楽再生端末を越えた“社会のデバイス”になった。だからユーザーが爆発的に増えるのも当然だろう。

 つまり、ウォークマンとiPodの戦いは、市場の現場では、確かに同じ分野に属する商品かもしれないが、実は“単なる音声端末”と、“社会的な存在となったユニバーサル端末”の間の戦争なのである。今や演じている舞台が違うのだ。

 問題は、ソニーがなぜ、そこまでの広がりの構想を持てないのかである。実は、ソニーは2000年から「単なるメーカー」を脱し、「ネットワークカンパニー」になろうとしていた。すべての事業部に「ネットワーク」という言葉を被せ、インターネットとホームネットワークを使ったビジネスをあらゆる部署で模索していた。「eSONY」という言葉もあったほどだ。しかし、ビジネスのネットワーク化がほとんど頓挫、経営陣も交代し、96年に出井氏が社長に就任する以前の「モノ至上路線」に戻ってしまった。

 私は、その順序は逆だったと思う。00年からの5年はモノづくりに徹し、素晴らしいものをつくり、そして今から、ネットワークでのビジネスに全力を投入するべきだった。モノづくりの復活だけでは、これからはやっていけないことは、新型ウォークマンとiPodの対決話を持ち出さなくても、明白だ。ぜひ、ソニーには広い視野でモノづくりを行うことを期待したい。
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