ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>2.安全・安心なIT社会とは

2006/01/09 16:04

週刊BCN 2006年01月09日vol.1120掲載

 IT新改革戦略は、小泉政権が推進する「構造改革」を前面に打ち出しながら、少子高齢化や急激なインターネット普及で社会に広がっている不安感に対応して「安全・安心」のための施策を数多く盛り込んだ。当初予想に比べて2年も早まって2005年に人口減少社会に突入した日本で、安全・安心をどのように確保していくのか。住民基本台帳(住基)ネットワークの稼働(02年8月)、個人情報保護法の施行(05年4月)を経て、今後一段と議論を深めていく必要がありそうだ。

 新戦略では、後半部分の「今後のIT政策の重点」で合計15の重点施策が設定された。1番目のITによる医療の構造改革では「2011年度当初までにレセプト(診療報酬明細書)の完全オンライン化」、9番目のデジタル・ディバイドのないインフラ整備では「2010年度までにブロードバンド・ゼロ地域を解消」など国民にも分かりやすい目標を掲げている。今後も「世界のIT革命を先導するフロントランナー」を目指す姿勢を示したが、新戦略の目的である「日本が引き続き経済的繁栄と豊かな国民生活を実現していく」には安全・安心の確保は不可欠だ。

 e-Japan戦略がスタートした当初、住基ネットへの反対運動が示すように、ITを使って個人情報が管理しやすくなることへの嫌悪感や、漏えいした個人情報がネットワークを通じて広がることへの不安感が大きかった。しかし、インターネット利用が急速に進むと、今度はネット社会の匿名性に対する不安感が高まってきた。10月の国勢調査では同じ地域に住む調査員に対しても個人情報保護を理由に回答を拒否するケースが出る一方で、1人暮らしの高齢者や幼児・児童を、災害や犯罪から守るために地域内で監視を強める動きが活発化している。12月に総務省が開催した「地域安心安全情報ネットワーク事例報告会」では、インターネットや携帯電話を使って地域内で安心・安全に関する情報を共有する地方自治体の活動が報告された。

 個人のプライバシー情報を保護するのは当然である。しかし、匿名性の高いネット社会では、認証技術などによって相手を特定できるようにすることも必要であり、災害時や介護福祉への対応、テロや凶悪犯罪の防止では個人情報を共有する必要も生じる。e-Japan戦略では、インフラ整備やパソコンなど機器の普及が最優先で、情報セキュリティの重要性が叫ばれていながらも十分な対応がなされていなかった面もある。今後、IT活用を本格的に進めていくうえで、「安全・安心」をキーワードに個人情報の中身と取り扱いのあり方を整理していくことも必要ではないだろうか。

 新戦略の15重点施策の中から「安全・安心」に関わる施策を抜き出してまとめてみた。これらの施策を実施していく過程で、IT社会に対する国民の不信感や不安感をいかにして払拭していくかが、新戦略の最も重要な課題と言えるかもしれない。最も重要なバロメーターは、電子政府・電子自治体の申請・届出のオンライン利用率だろう。その数字は、国民の住基カードと公的個人認証などの取得数に比例すると考えられるからだ。新戦略では「2010年度までにオンライン利用率50%以上」の数値目標を掲げたが、縦割り組織のままの使い勝手の悪いサービスから脱却できなければ、利用率50%の達成などおぼつかない。国民にとって本当に使い勝手の良い便利なサービスを実現したうえで、国民が住基カードと公的個人認証を積極的に取得するようになるのか。IT社会における「安全・安心」を確立できるかどうかにかかっている。(ジャーナリスト 千葉利宏)

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