トヨタ攻略の至上命題を達成するとともに、より幅の広い民需の掘り起こしが、中部東海に拠点を置くITベンダーのカギを握っている。主要な関連企業だけで20兆円超の事業規模を誇る巨人・トヨタ自動車を抱える中部東海地区。ITベンダーはトヨタ攻略にしのぎを削るものの、「競争が激しく、ひとつ間違えば利益が出ない」(ITベンダー幹部)と、消耗戦になりかねない厳しい競争にさらされている。トヨタ一極集中だけでなく、幅広い民需開拓を進めることが収益強化に結びつくという指摘もある。(光と影PART IX・特別取材班)

トヨタ攻略にしのぎを削る 民需開拓が収益増強のカギ

■常駐型派遣求めるトヨタグループ

photo トヨタ自動車グループは、東海地区におけるIT投資の約半分を占めるといわれ、他の企業グループとは一線を画す規模である。地元有力企業のブラザー工業(名古屋市)が約5500億円、住宅設備メーカーのINAX(愛知県常滑市)が約3000億円の事業規模と、大手企業グループは多数あるものの、トヨタ自動車の主要関連企業との差は大きい。ITベンダーは、トヨタ自動車の主要グループに対して、本社直轄の営業部隊を当てるなど特別の体制を整えているケースが多い。「トヨタとそれ以外」(ITベンダー幹部)に分けて市場を捉える傾向が強い。

 これまで、自動車関連企業のIT投資は、ERP(統合基幹業務システム)や生産管理システムなど生産性向上を目指すシステムが中心となってきたが、ここ数年は、カーナビゲーションシステム(カーナビ)などの組み込みソフトの需要が高まっている。ITベンダーは、従来型の業務システム関連のビジネスとともに、「今後の成長分野」(江尻良範・中部日本電気ソフトウェア社長)である組み込みソフトの受注にも力を入れる。中部日本電気ソフトウェアは、トヨタ自動車のすぐ近くの愛知県日進市に本社を置き、将来、整備が進むと見られるITS(高度道路交通システム)の需要も視野に入れながら、積極的な提案活動を展開している。

 だが、不断の改善を推し進めて無駄を徹底的に排除し、1兆円を超える利益を叩き出す“トヨタイズム”を持つ企業グループだけに、自動車の価値を大きく左右する中核的な組み込みソフトや戦略的なITSの核心部分については、安易にITベンダーに委託することはない。総合力のある大手ITベンダーになればなるほど、上流行程から下流工程までトータルな提案を行い、全行程を主導的に受注したいとする要望が強い。ところが、トヨタグループのなかには、中核となるノウハウの外部流出を防ぐため、ITベンダーの優秀な技術者を自社内に常駐させる派遣型のソフト開発を求める傾向が見られる。ITベンダーからのトータルな提案が必ずしも受け入れられる環境にはない。

 組み込みソフトやITSにおいても、通常の業務システムと同様に「トータルなソリューションとして提案」(松下公一・富士通中部システムズ社長)することが、独自の価値を創造する基盤となる。技術者派遣型のビジネスではノウハウの習得や将来の価値を生み出す独自性が創出しにくいと考えるITベンダーは少なくない。カーナビやITSの分野ではアプリケーション基盤を共通化する動きが出始めており、こうした共通化が進めば、ITベンダーの独自性を発揮しやすい環境が整うことになる。したがって、派遣型のビジネスを無理に受注するのではなく、大手ITベンダーの総合力を発揮できるようなビジネスチャンスを探る動きが活発だ。

■公共事業縮小し提案型営業に活路

 トヨタ関連を除いた市場を見ると、官公庁や電力など公共分野の比率が意外に高い。国産大手ITベンダーのトヨタ関連を除く売上高のうち、自治体を中心とする官公庁関連の比率は3割ほどと高く、これに電力や医療などを加えると公共分野の比率はさらに高い。

 市町村合併に伴うシステム統廃合など自治体関連需要はすでに一段落しており、2006年は前年割れの可能性もある。東海地区の自治体で独自の情報システムを導入している件数は、受託計算センターの共同利用などを除くと、合併前は100団体ほどあったが、合併後は約70団体に減ったといわれる。自治体の母数が減り、日本国際博覧会(愛知万博)や中部国際空港などの大型公共投資が終わったことで、最近では民需を中心とした「IT関連のビジネスを拡大させる」(古市栄一・日立製作所中部支社長)ことで補おうとする動きが目立ち始めている。

 例えば、電子カルテや介護保険、健康食品など「健康関連ビジネスの拡大」(小池康夫・富士通経営執行役東海営業本部長)に着目するベンダーや、ウェブPOSやGIS(地理情報システム)、無線タグなど「自社の強みを生かしたビジネスの新規開拓」(多田正美・NEC中部支社長)などさまざまだ。

 富士通では、成長分野への営業力強化のため、営業とSE(システムエンジニア)との一体的な展開に取り組んでいる。その成果の1つとして見積もり作成の時間を、この1年余りで大幅に短縮した。営業とSEが密接に連携し、見込み客に見積もりを迅速に提出することでビジネスチャンスを拡げる狙いだ。

 日本アイ・ビー・エム(日本IBM)では、これまで中小企業向けのアプローチとしては、サーバーやパッケージソフトなどプロダクト販売に重心を置く傾向が強かった。しかし、05年後半から顧客の経営問題を解決する「ソリューション型のスタイル」(中村明宏・日本IBMゼネラル・ビジネス事業中部支社長)へと軸足を移した。これにより提案営業を強化して、民需を中心とした受注拡大を目指す。

 トヨタ自動車を頂点とする企業グループと、その他の一般民需をどう拡大させるのかが東海地区におけるビジネスの基本軸となる。自治体・公共への依存体質ではリスクが大きい。だが、不断の改善を推進する“トヨタイズム”が地域全体に浸透しており、少しでも提案に不合理な部分があれば受け付けない厳しさもある。付加価値の高いソリューションをベースに、合理的な提案をどこまでできるかがビジネスの成否を分ける。