ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>9.食の安全・安心システム

2006/02/27 16:04

週刊BCN 2006年02月27日vol.1127掲載

 農林水産省が2005年度から3年計画でスタートした「ユビキタス食の安全・安心システム開発事業」の05年度分採択8事業の実証実験が今年に入って相次いで実施された。法律で義務づけられる牛肉以外の食品でトレーサビリティシステムの普及を推進するため、幅広く民間からアイデアを募集し導入しやすいシステムの開発を目指している。

 2月13日から10日間、坂村健東京大学教授が主宰するT-Engineフォーラムと食品スーパーのサミットが実証実験を行った。

 食品の生産・加工・流通履歴と販売の情報を追跡できるトレーサビリティシステムの重要性は幅広く認識され、消費者からの要望も根強い。しかし、現状では万一の事故に備えるとの意義が大きく、システムの導入費用や維持・管理の手間などの負担軽減が課題だ。

 T-Engineフォーラムとサミットが開発したのは、豚肉、鶏肉、養殖の鯛、ぶりに牛肉を加えた5品目について、商品ごとのトレーサビリティ情報を店内に設置した情報検索端末に表示するシステムで、サミットストア三鷹市役所前店など5店に導入した。サミットストアのバックヤードで加工されて発砲トレイにラップした個包装ごとに、T-Engineフォーラムが提唱する「UCODE」を使った識別コードをQRコード(二次元コード)にして商品ラベルに印字。情報検索端末のスキャナでQRコードを読み取ると、生産地や出荷日時などの情報が表示される。

 サミットでは、04年に導入された牛肉のトレーサビリティシステムへの対応で、個体コードが付いた商品を店舗のバックヤードで加工・個包装し、商品ラベルに識別コードを印字する基本的な仕組みは整えていた。これを豚肉や鯛などの商品にも適用したわけだが、国が定めた牛肉の個体識別番号のように商品のコード体系が標準化されていない。この問題を解決するため、全ての識別コードを最終的にUCODEで管理することにし、自動計量器に識別コードをUCODEに変換する機能を追加。情報検索端末は、UCODEを読み取ると自動的にデータサーバにアクセスして紐付けされた識別コードのウェブページを呼び出す。

 最大のポイントは、生産者や加工業者などの協力を得て、各社が管理している個体コードや履歴情報をマイクロソフトのExcelデータに変換して、データサーバを管理するユビキタスID(東京都千代田区)に送信してもらえるようにしたこと。このため、システムを継続運用できるかどうかも「他のスーパーとの差別化で継続するメリットはあると考えているが、問題は生産者や加工業者に引き続き協力してもらえるか」(阿知波紀之サミット取締役情報システム部担当)にかかっている。トレーサビリティ情報の内容も「今回は情報提供してもらうのが最優先で、情報の中身には条件をつけなかった」(戸田忠志ユビキタスID常務)が、本格運用となれば情報の精度を確保するための対策も必要となるだろう。農水省では食品ごとにガイドラインを策定し、トレーサビリティ情報として管理すべき情報などを定めており、ガイドラインへの対応を協力業者に求めていく必要も出てくる。

 今回の実証実験では、トレーサビリティ情報を紐付けするのにUCODEを使用したが、UCODEが標準コードとして認定されたわけではない。農水省では「いろいろなシステムが開発され、実用化に向けて競争することが望ましい」(萩原秀彦消費・安全局消費・安全政策課課長補佐)としており、引き続きトレーサビリティシステムの普及に向けた課題解決に取り組んでいく構えだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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