ユーザー事例 経営がITを変える

<ユーザー事例 経営がITを変える>1.千代田第一工業【上】

2006/04/03 20:29

週刊BCN 2006年04月03日vol.1132掲載

 IT投資に積極的なユーザーほどITを知り尽くしている。ITの活用で経営が変わる時代から“経営がITを変える”時代へと移りつつある。  高度なITを活用して業績を伸ばすユーザー企業が増えれば、ベンダーはより経営に踏み込んだ提案が求められる。ITの活用は経営戦略そのものだからだ。満足する投資対効果を提示できなければ需要に応えられない。業者選定を行うユーザーの主導権はより強まり、ベンダーはターゲットとするユーザーを絞り込みにくくなっている。  この連載では、ユーザー企業やシステムのコンサルティングや構築に当たったベンダー、ITコーディネータなどへのインタビューを通じて、経営がITに何を求めているのかを徹底検証する。

期待に応えないIT

「ソリューション」とは何か

 メッキ加工の千代田第一工業(鈴木信夫社長)が独自に開発したメッキ加工技術「ダイクロン」は、硬さや剥がれにくさにおいて業界トップクラスの性能を誇る。下請けに甘んじる同業者が多いなか、ユニークなオリジナル商品の開発を通じて業績を伸ばす優良企業だ。

 顧客企業の声に耳を傾け、抱える課題の解決方法を考案することがヒット商品の開発に結びつくと考える。このため、顧客の要望に素早く反応できるよう、情報システムは販売管理や営業支援系を特に重視してきた。これまで、有名ITベンダーの販売管理や営業支援系のシステムを過去3回にわたり導入したが、いずれも期待していた効果を十分に得られなかった。

 中小企業向けのパッケージシステムとはいえ、導入にかかる初期コストは300-400万円。決して安い投資ではない。

 鈴木社長が望むのは、ずばり「社員の生産性を2倍に高めること」だ。高額な投資をするのだから、目に見える大幅な効果を出して当然との考えからである。生産性を1割、2割高めるくらいだったら業務改善など他の方法を使った工夫でも成し遂げられる。これまでもそうしてきた。

 例えば、中小のメッキ加工業で生産性が倍増したという「マスター事例すらない」と、ベストプラクティスの積み上げが少なすぎるITベンダーへの不満を漏らす。業務を革新するツールというなら、具体的にどの程度の革新が可能なのか、事前の説明責任が求められるのは当然だ。導入効果が一目瞭然の「コピー機やファクシミリとは違う」と、経営者に対する明確な説明なしに“ソリューション”はあり得ないと話す。

 全国約253万社の法人数のうち中小企業は実に99%を占める(国税庁調べ)。この巨大市場を制するためにベンダーはさまざまな施策を講じてきたものの、必ずしも有効な手だては見いだせていない。

 コピー機やファクシミリなどは、今や鉛筆や消しゴムなど筆記用具の延長線上にある機械だ。これと同じ感覚でパソコンなどのIT機器を販売するのであれば、ウェブ直販で競争力のある価格で販売している「デルから買えば済む」。SIerから割高とも言える価格で買っているのは「ソリューションを期待してこそ」と、解決力が求められている。

 ソリューションの価格は、売り手の原価の積み上げで決まるものではない。経営課題を解決し、どれだけ売り上げを伸ばしてコストを削減したかで決まる。中小企業は資金力が少ないから投資できないのではなく、この部分を売り手が明確に提示できていないケースが意外に多いのではないか。

 次週は、試行錯誤を重ねて自社に合った情報システムを構築した同社の取り組みを紹介する。(安藤章司●取材/文)
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