日立システムアンドサービス(日立システム、中村博行社長)は、独自の開発フレームワークを活用してビジネスを伸ばしている。業務アプリケーションの開発に最適化した独自フレームワークを.NETフレームワーク上に構築することで生産性を向上。ビジネスを押し上げる原動力にしている。さらに基本ソフト(OS)や.NETフレームワークの仕様が変わっても、その差違を独自フレームワークで吸収し、顧客の業務アプリケーション資産の保全にも貢献している。(安藤章司●取材/文)

生産性向上やソフト資産の保全に貢献

■.NETの“自由度”が持つ弱点をカバー

 独自の開発フレームワークの名称は「コーサデンタ」で、03年から日立システムの社内で運用を始めた。企業で使う業務システムに欠かせない拡張性や変化適応能力、開発運用コストの低減に重点を置いたのが特徴だ。当初は自社内のみで使う開発フレームワークとして活用していたが、顧客企業から「ぜひ使いたい」という引き合いが急増。翌04年4月からユーザー向けに販売を始めた。すでに30社余りの顧客が採用している。

 情報システムは、開発時の生産性を高めることやコストを低減することが重要だ。だが、刻々と変化するビジネス環境に素早く適応して、ローコストで組み替えや拡張できることのほうがむしろメリットが大きい。コーサデンタはシステム完成後の変化適応を重視する思想に基づいて設計されており、拡張性や柔軟性の高いシステムを効率よく開発できる。

 また、開発を担当するシステムエンジニア(SE)が持つスキルのばらつきの影響を最小限に抑えながら最適な設計を行えるのも強みの1つだ。.NETフレームワークは汎用性を重視するあまり「開発の自由度が大きすぎる」(酒井達明・オープンソリューション本部システムファウンデーションズテクノロジーセンタマイクロソフトグループ技師)傾向がある。このため、ややもすれば企業向けの情報システムとして適さない設計を許容してしまう可能性もある。

 例えば、操作画面のユーザーインターフェース(UI)と業務処理を行うビジネスロジックからなる業務システムがある。それぞれ1つずつしか存在していなければ、両者を直接結んでシステムを構築することも可能だ。しかし、拡張が進み、複数のUIと複数のビジネスロジックが複雑に結びつき始めると、容易に手直しできない状態になってしまう。1つ変更を加えると、他のUIやビジネスロジックに影響を与えてしまい、不安定なシステムになりかねない。

 このような“スパゲッティ状態”にしないために、コーサデンタではフロントエンドのUIを取りまとめる「UIプロセス」とビジネスロジックを取りまとめる「ビジネスロジックプロセス」を設置。プロセス同士をXMLで結び、UIとビジネスロジックが直接結びつかない設計を容易に行えるようにした。UIやビジネスロジックに変更を加えても、プロセス部で差違を吸収してしまうためシステム全体への影響を最小限に抑えられる(下図参照)。


■顧客のソフト資産を保全できる

 プロセス同士をXMLで緩やかにつなぐ粗結合方式はサービス指向アーキテクチャ(SOA)に基づいている。従来の密接な結合方式に比べて柔軟性が格段に高い。コーサデンタを適用することで、SOAベースの設計が容易に行えるようになるだけでなく、応答速度の確保やネットワークへの負荷の軽減などの技術的な課題も克服しやすくした。SEのスキルに多少の高低があったとしても、常に安定した性能を出せるよう支援する。

 今年2月、マイクロソフトは開発ツールの最新版「ビジュアルスタジオ2005」の販売を始めた。.NETフレームワーク最新バージョン「.NETフレームワーク2.0」に対応した開発ツールとしても注目されている。旧バージョンとの互換性は確保されているものの、ウェブアプリケーションのアーキテクチャの進化や言語仕様の若干の変更、制御方法、セキュリティ強化などさまざまな改良が加えられている。

 企業の情報システムは、1度つくったら終わりではなく、不断に拡張し続けるものである。これが顧客企業のソフト資産となって競争優位を導き出す。OSや.NETフレームワークが変化したときでも顧客のソフト資産を守り続ける必要がある。新バージョンの.NETフレームワークを顧客企業に適用してシステムのパフォーマンスの向上を図ろうとした場合でも、万が一の不具合で業務が中断するリスクを無視するわけにはいかない。

 コーサデンタ上に構築したシステムならば、.NETフレームワークの変更点をミドルウェア層で吸収できる。アプリケーションに手を加える必要がなくなり、動作不良などのリスクを大幅に軽減できる。

 日立システムでは、今年4月からの新規開発案件を中心にビジュアルスタジオ2005の活用を本格的に進めており、コーサデンタの.NETフレームワーク2.0への対応は、今年度上期(06年4-9月期)末まで完了させる予定だ。最新のテクノロジーを積極的に吸収しつつも、「顧客のソフト資産の保全をする」(久保木満・オープンソリューション本部システムファウンデーションズテクノロジーセンタマイクロソフトグループ主任技師)ことが、TCO(トータル運用コスト)の削減や顧客企業の競争力アップにつながると判断している。

■着実なサポート体制で外販比率を高める

 また、同社ではビジュアルスタジオ2005で新しく採用された開発手法「チームシステム」の活用も進める方針だ。

 設計、開発、テスト、実装といった一連の開発工程を、チーム全体で連携して進める基盤を提供するもので、「コミュニケーションの円滑化に役立てる」(酒井技師)狙いだ。社内の開発チームだけでなく、顧客企業との共同開発、海外オフショア開発チームとの連携など、チームシステムの応用可能な範囲は広い。

 日立システムの売上高の内訳は、日立グループ向けの売り上げと、自社が中心となってビジネスを展開している外販ビジネスの大きく2つの形態に分けることができる。

 03年度(04年3月期)の外販比率は5割強だったが、05年度は6割程度に拡大する見込みだ。開発生産性や保守メンテナンス、拡張や手直しの自由度を高めるアーキテクチャを採用した独自フレームワークを積極的に適用することで外販ビジネスの比率を着実に拡大させている。

 アーキテクチャの選定段階から顧客企業への具体的な提案を行い、構築後の手直しや拡張性、将来のテクノロジーの取り込みまで見据えた基盤を提供する。このように、顧客のコスト負担を最小限に抑えながらライフサイクル全体を着実にサポートしていく。システム開発を案件単位で終わらせない企業姿勢が、日立システムのビジネス拡大に結びついている。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)