ユーザー事例 経営がITを変える

<ユーザー事例 経営がITを変える>3.セレコーポレーション【上】

2006/04/17 20:29

週刊BCN 2006年04月17日vol.1134掲載

CADの枠を超える

全体最適型の思想

 集合住宅の建設などを手がける中堅住宅メーカーのセレコーポレーション(神農雅嗣社長)は、この4月からCADで設計した図面の部材マスターデータを活用して、原価計算や見積金額などをシームレスに発注システムへ受け渡す仕組みを大幅に拡張した。これまでも柱や梁など骨組み部分の部材約1000点のデータ連携は行っていたが、今回は対象部品を5000点余りへと拡大。CADデータから部材の点数や単価を手作業で拾い出す作業を減らすことでミスをなくし、コスト削減を実現しようとするものだ。

 システムを導入する以前はCADで設計した図面から手作業で部材データをピックアップし、原価計算や見積もりの作成、発注作業を行っていた。そのため原価計算に時間がかかったり、部品の発注ミスが起りやすいなどの課題があった。セレコーポレーションでは、CADのデジタルデータを原価計算など既存の情報システムへシームレスに受け渡し、手作業による拾い出しをなくせないかと考え、2004年頃から段階的にCADデータの有効活用を始めた。

 CAD関連システムの枠を超えた全体最適型の思想に基づいている──。システム構築を担当した大塚商会はセレコーポレーションのCAD活用をこう評価する。

 建設業や製造業などの設計部門用のシステムとしてCADは広く普及している、いわば部門最適型のシステムだ。

 このCADを中核として住宅建築業務全体のシステムを効率化、最適化する取り組みは、CAD関連システムの開発を年間100件余り手がける大塚商会にしても「年に数件の先進的な取り組み」(大塚商会)だった。受注に際しては身が引き締まる思いだったという。

 中堅住宅メーカーが資本力で勝る大手メーカーと競うには、品質や納期、価格などで差別化を図らなければならない。セレコーポレーションは販売ターゲットの明確化と徹底した部材の規格化で優位性を確保しようと考えた。

 販売ターゲットを賃貸アパートや高齢者向きの介護付き集合住宅を手がける事業者に絞り込んだ。

 購入者はアパートや介護付き集合住宅を運営して土地資産を生かす。若者が多い都心部では賃貸アパートを供給し、郊外には介護付き集合住宅を供給するなど立地条件に合ったオリジナル商材を多数揃えた。

 居住性のよさもさることながら、丈夫で使い勝手のいい物件を早く安く提供することが建物購入者のコストパフォーマンスを大きく左右する。一般の個人向け住宅とは異なり、ビジネスとしての観点を求められるのが特徴だ。

 取り扱う部材はできるだけ共通化し、骨組みの部分は国の指定機関から「型式適合認定」を受け、個別の建築確認や検査時の審査を簡略化。品質を一定に保ちながらコスト削減を行い、顧客の投資効率を引き上げる同社の取り組みは高く評価されている。情報システムの面から見れば、同一の型式で量産したり、標準的な仕様で建設することが多いため、部品の標準化を進めやすく、コンピュータ導入による効果を出しやすいビジネスモデルを構築してきた。

 CADデータを有効活用する発想は、こうした競争力強化への取り組みの延長線上に浮かんだ。

 ITベンダーの選定では04年の段階で10社ほどの業者候補が挙がったが、CADシステムで実績があり、「当社の事業を比較的よく理解してくれていた」(セレコーポレーションの山口貴載・経営企画部執行役員本部長)ことが大塚商会に決まった主な理由だ。CADシステムの販売本数では全国トップクラスの大塚商会だが、「大手ハウスメーカーを上回るIT戦略」と積極的な取り組みに舌を巻いた。(つづく)(安藤章司●取材/文)
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