ユーザー事例 経営がITを変える

<ユーザー事例 経営がITを変える>5.武陽ガス

2006/05/01 20:29

週刊BCN 2006年05月01日vol.1136掲載

業界に強いSIerと連携

独自ノウハウをうまく引き出す

 ガス会社は激しい競争にさらされている。電力会社や総合家電メーカーが資本力を武器にガスから電化への転換を強力に進めているからだ。こうしたなか、東京都福生市に本社を置く中堅都市ガス会社の武陽ガス(山下真一社長)では徹底した顧客密着戦略を展開することで客離れを食い止め、着々と事業を拡大している。

 業務支援や営業事務系の機能を重点的に強化することで、顧客の問い合わせに対して迅速に反応し、必要な作業手配を確実に行うことで満足度向上に結びつけた。

 必要なITは、ガス会社向け業務システムの開発でトップクラスの実績がある両毛システムズ(群馬県桐生市、阿部幹雄社長)をメインパートナーに選んだ。両毛システムズのガス会社向けの業務モジュールやパッケージソフトをうまく活用することで短期間のうちに効率的な業務システムを構築した。 武陽ガスの本社がある東京西部の福生市と、両毛システムズがある群馬県桐生市との間の交通の便は決してよいとはいえない。地元のITベンダーなら行き来もしやすいのだが、「この手の取引は距離だけでは測れないものがある」(山下敬一専務)と地理的要因は重要ではないと判断している。

 ガス会社の業務システムを熟知し、「こちらの要求を素早く理解する知識」などの“バックグラウンド”を共有していれば、電話や電子メールのやりとりで、ある程度の意思疎通はできる。東京の大手SIerなど複数のITベンダーに見積もり依頼をしたが、「両毛システムズにこれまで依頼してきた業務システムの構築実績と、提示価格の安さ」もあり、メインの発注先が変わることはなかった。

 これまで、基幹業務システムをオープン化したり、ガス料金の検針作業を効率化するPDA(携帯情報端末)の導入、データベースの機能拡張、情報共有ツールの活用などさまざまな取り組みを行ってきた。2000年問題(Y2K問題)のときにオフコンで構築した基幹業務システムをウィンドウズベースのオープンシステムに入れ替え、01年頃からどの顧客が何をいつ購入したのかを記録する購買履歴データベースを導入した。

 今年2月からは検針の現場でPDAにガス使用量を入力し、会社に持ち帰ってからのデータ入力の作業をなくした。

 従来は、検針員が調べてきた使用量データを営業事務の担当者が5-6人がかりで入力していた。入力中に顧客からの電話が入ると、対応があいまいになったり、集中力が途切れて入力ミスにつながる可能性も否定できなかった。入力作業がなくなったことで顧客への対応や現場の営業マンや作業担当者の業務支援により集中できるようになった。

 もうひとつこだわった点は、特定ベンダーに依存しないオープンさだ。

 検針端末の選定では、独自アーキテクチャのハンディターミナル機ではなく、電子手帳などの用途に使われる汎用的なPDAにした。すでにオープン化している基幹業務システムとの相性もよく、両毛システムズがPDAをベースとした検針システムの構築を得意としていることも追い風になった。

 昨年度(05年12月期)は、都市ガスの販売が売上高の約9割を占め、残り約1割がコンロや給湯器、浴室乾燥機、床暖房などガス器具が占めた。顧客サービスの向上などを通じて顧客との結びつきを強めることで、今後2-3年中にガス器具関連の売上高比率を約2割に高めることを目指す。使用器具が増えればガス消費も増えるからだ。

 顧客からの最初の電話を受ける業務支援、営業支援の体制を強化するとともに、客先に出向く営業や作業担当者の効率化に取り組むことでビジネス拡大を目指す。(安藤章司●取材/文)
  • 1