動き出した“影の主管課”

庁内から地域へ目を向ける

 電子自治体システムの指針づくりは、総務省本庁4階の自治行政局自治政策課が主管。だが、もう一つ、“影の主管課”がある。関係者が「11階」と呼ぶ情報通信政策局地域通信振興課だ。旧郵政省の流れを汲み、地域ネットワーク整備事業を通じて「自治体情報システムの抜本改革」を提唱している。市町村の情報システムにはダイレクトに関与しないものの、影響力は小さくない。影の主管課が考える「脱レガシー」とは何か。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

■緩慢な死とバベルの塔

 自治政策課が公表した次期電子自治体構想は、市町村向けアプリケーション・プログラムのソースコードを公開し、共同アウトソーシングで提供すべきである、というものだった。電子自治体システムの主たる目的として、同課が一貫して掲げてきた「コストの削減」を実現するには、ソフトウェアやサービスを強制的に無償化することが手っ取り早い。

 市町村が同一のアプリケーションを共用すれば、制度改正に迅速な対応が可能になる。またソースコードが開示されていれば、地域のIT産業が参入しやすくなる。いいこと尽くめではないか──と自治政策課は胸を張った。

 地域通信振興課が「自治体情報システムの抜本改革」を公表したのは昨年3月である。その中で電子自治体システムとは何か、を問いかけたのだ。当時、同課の地方情報化推進室長だった谷史郎氏(現総務省統計局課長補佐)は次のように語っている。

 「電子自治体とは、一般には、フロントオフィス系システムとバックオフィス系システムを連携させ、一体的に運用するもの、と認識されている。業務改革などを目的として、民間企業におけるERPを参考に構想されたシステム体系であり、業務の効率化を図るものとして非常に重要だが、これまでの考え方では業務の効率化が強調され過ぎている」

 「住民の利便性の向上を中心に考えれば、行政の情報化だけでは不十分。自治体への申請や届け出を電子化するのは、電子自治体システムのごく一部で、地域における教育、医療、防災、産業といった広範な領域が対象でなければならない。つまり住民やNPOなど地域コミュニティとも協同しつつ、ITを活用してこのような分野での課題を解決する地域の情報化こそ重要ではないか」

 「レガシーシステムや汎用機は緩慢な死に向かいつつあるものの、新しい情報システム体系を再生するためには、戦略的な対応が必要となる。すなわち、マルチベンダー環境のもと、どのベンダーの情報システムでも容易に連携ができるよう、情報の定義等を標準化していくことが必要不可欠」

 「運用コストを圧縮することは自治体情報システムの抜本改革の中心的な課題となっているが、平成に入ってクライアント・サーバー方式やウェブ方式による新しい情報システムが構築され、その結果、担当部局が情報システムの個別入札を行い、情報システムごとにベンダーが異なるという状況が生まれた。自治体内の情報システムがマルチベンダー化したことにより、あたかもバベルの塔を築こうとした人間が別々の言葉を話すように仕向けられたように、意思が通じなくなっている」

■反問か補完関係か

 地域通信振興課はまず、COBOL系プログラムが多くの市町村で安定的に運用されていることを認め、かつオープンシステムのメリット、デメリットを併記した。例えば、大量データ処理や安定性の要求にオープンシステムは対応できるか、レガシーシステムからの移行経費が高くつくのではないか、住民情報系は汎用機、内部情報系はオープンなど個々の特性に合わせて検討すべきではないか、といったことだ。

 また、市町村における情報システムの本質的な課題はメインフレームやオフコンだけでなく、担当部局が個々に導入したシステム間の連携ができなくなっていることだ、と指摘した。そのうえで提示したのは、「汎用機のサーバー化→統合データベースの構築→WEBサービス技術によるシステム間連携+共同アウトソーシング化の促進」というプロセスだった。

 「自治体情報システムの抜本改革」論が公表されたとき、これをどう理解するか、関係者の意見が分かれた。一般論に仮託しているが、全体の文脈から、理念的に「脱レガシー=オープン化」キャンペーンを展開する自治政策課への反問と読み取った人がいる一方、共同アウトソーシング事業を推進する立場において自治行政課と補完関係にあると見る向きもあった。

発信したのが他の省庁であれば、「縄張り争い」「立場の違い」で片づけることもできた。だが、同じ総務省の内部から見直し論が示されたのは異例のことだ。事前に省内で調整が行われ、所管課の顔を立てるという“霞ヶ関のオキテ”に従えば、自治政策課が所管する政策に他の部局が口をはさむのはオキテ違反ではないか。にもかかわらず地域通信振興課があえて踏み込んだからには、何か考えがあってのことに違いなかった。

■決定的な“次の一手”

 地域通信振興課は、強烈な“次の一手”を周到に準備していた。昨年10月のこと、全国地域情報化推進協議会を立ち上げたのだ。主旨は“地域”の観点から電子自治体のあり方を考えようというもので、設立総会には、副大臣をはじめ総務省の幹部が出席し、全国の市町村や民間企業の代表約400人が参加した。今年5月には財団法人が認可され「全国地域情報化推進協会」(会長=和才博美・NTTコミュニケーションズ社長)に改組・改称した。

施策として掲げたのは、(1)公共ネットワークにおける情報プラットフォーム(2)レガシーシステムの移行モデル(3)全国公共アプリケーション(4)地域情報化ナレッジ・ライブラリー(5)官民連携による地域活性化(6)安心安全な生活の確保──などだ。自治政策課の電子自治体構想がカバーしていないか、施策として不十分な領域に視線を向けている。そればかりでなく、基盤として浮上したのは、総務省の旧郵政グループが推進する「u-Japan」(ユビキタス・ネットワーク構想)である。プロジェクトは官民共同の技術開発に発展する可能性を秘めている。ここにきて「元気がいいのは4階より11階」と口にする関係者が少なくないのはこのためだ。

〔補足〕地域通信振興課が名を馳せたのは、1983年から92年まで実施された「テレトピア構想」だ。10年間で全国220か所、530以上の市町村が名乗りをあげ、CATVやパソコン通信システムの構築が進められた。次いで同課は「地域イントラネット基盤施設整備事業」を打ち出し、過去3年間に投入された関連予算は約400億円に及ぶ。

地域ネットワーク構築にかかる費用の最大4分の3を事業実施主体(市町村もしくは第三セクター)に求め、不足分を助成する“はずみ車”的な施策だ。財政規模が大きく域内の事業者や人材が豊富な都市と、過疎の山村や離島の情報格差を埋める予算措置で、弱小自治体にとっては天の恵みに等しい施策となっている。