SI新次元 経常利益率10%への道

<SI新次元 経常利益率10%への道>29.2006年の総括

2006/12/18 16:04

週刊BCN 2006年12月18日vol.1167掲載

なぜ利益率を高められないか

費用増と売り上げ減の二重苦も

 経常利益率10%への道はどこにあるのか。今年5月から始まった本連載ではSIerのビジネスモデルを検証した。企業活動の生命線ともいえるITシステムの構築は、本来なら付加価値の高いサービスのはずだ。なぜ思うように利益率を高められないのか。10%の壁は厚いのか。

 取材を通じて浮き彫りになったのはソフト開発の失敗による収益悪化である。不採算にならぬようプロジェクトマネジメントを大幅に強化するのだが、工程ごとの確認作業が増えて管理コストが増大、開発スピードが落ちるうえに折からの人手不足で新規受注を先送り。結果、費用増と売り上げ減の二重苦に陥るケースも。

 ソフト開発の平均的な原価率は「85%が限界」と指摘する大手SIerの声も聞かれた。競合他社との価格競争やオフショア開発などで長期的にはSE・プログラマの1か月の経費を示す「人月単価」は下落傾向にある。単価下落の圧力が強くて生産性向上による原価率の低減が間に合わない。一部に「人月○○万円以上でないと受注しない」という収益重視のSIerも存在するが、全体からみればまれだ。

 ではどこで儲けるのか? 多くのSIerの目線は「生産性の一層の向上」と「運用サービスなどストックビジネスの強化」に向けられる。パッケージソフトやオープンソースソフト(OSS)を活用した生産効率の改善、システム納入後の運用サービスをはじめとするストックビジネスで利益を得る考えだ。

 中国やベトナムなどでのオフショア開発が無効になったわけではない。原価率を下げる効果はある。しかし、カントリーリスクや文化の壁を乗り越えるのは容易ではない。同業他社もオフショア開発を行っているため価格だけの差別化はやはり難しい。製造業では付加価値の高い分野を国内で生産する回帰現象が起こっている。

 「オフショア開発一辺倒ではなく、差別化できるビジネスを自前で持つことが勝ち残りのカギ」となるだろう。

 収益増の柱として独自開発のパッケージソフトの拡充や運用サービスメニューの多様化、月額課金のオンデマンドサービスを新たに始めたSIerもある。ユーザー企業からの支持が得られれば、ソフト開発の何倍もの粗利が得られる。

 ただこうした動きができるのは、ユーザー企業から直接受注する“元請け”だからこそ。下請けや孫請けでは自社の強みを直接ユーザーに提案しにくい。

 1990年代はコンピュータやネットワーク機器の価格が下落。ハードウェアの取り扱いが多いSIerは収益悪化に苦しんだ。再編も進んだ。00年代に入ってソフト開発の不採算化が表面化。これを乗り切るには強みを発揮するサービス体系を明確にし、ターゲットとする業種業態のユーザー企業と正面から向き合うことが欠かせない。

 本連載は新年号から引き続きSIerのあるべきビジネスモデルを探求する。
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