消費者置き去りのメーカー

出版社からも悲鳴

 「DVDが読めない」──パソコンユーザーからそういう苦情があがっている。使っているパソコンが壊れたと思い込んで修理に持ち込んだり、高価なDVD読み取りソフトを購入したり……。ところがよく調べると、パソコンには何の問題もなく、実は最新のDVD規格「片面2層記録式DVD-R」(DVD+R DL)ディスクの互換性が原因。専門家は「用途に応じて再生機器を選べばいい」と言うのだが、一般家庭のユーザーには通じない。この問題が意外なところに飛び火している。出版社が頭を抱えているのだ。(中尾英二(評論家)●取材/文)

 何でもありで有名なインターネットの書き込みサイト「2チャンネル」。昨年11月、「最近、読めないDVDディスクに出くわすことが増えていないか?」という話題で盛り上がった。届いたばかりのゲームソフトが読み取れない、ディスク10枚のうち7枚は読み取れたが3枚はダメだった。なんでだ!というわけだ。

 神奈川県のある主婦は今年2月、書店でダイエットのノウハウ本を購入した。本文が100ページもない薄い本に3000円も出したのは、巻末に付いている映像入りのDVDがお目当てだったからだ。早速、自宅のノートパソコンに入れると、しばらくアクセスランプがチカチカしたあと、ウンともスンともいわない。

 そればかりか、〔このディスクを読み取るには専用ソフトが必要です〕

というメッセージが表示される。

 「えっ、どうして?3000円も出して買ったのに~」

 使っているパソコンは4年前に買ったものだが、Windows XPモデルで本体には「DVD-ROM+CD-R/RWドライブ搭載」のラベルが貼ってある。「無理せず痩せたい」は女性の切実な願いだし、専業主婦にとって3000円は決して安い買い物ではない。

■結局は読み取れない

 機器の仕様に「DVD対応」とあれば再生できると思うのが自然だし、メーカーは「新規格でも既存の機器で再生できます」とうたっている。前述の主婦はともかく、2チャンネルの投稿者は、パソコンやインターネットのプロ(ないしマニア)的な上級者が多い。そのレベルの人でさえ、「なんでなんだ!」と悲鳴をあげる。

 家電メーカー、パソコンメーカーがコンテンツメーカーやソフトメーカーを巻き込んで激しく主導権を争っているHD DVDとブルーレイ・ディスク(BD)の規格の違いかというと、それだけでもない。HD DVD、BDともようやく市場に出回り始めた段階だからだ。

 光ディスクが多様化し、読み取り・書き込み方式だけで最も一般的なCD、CD-R、CD-RWなどのほか、DVD-ROM、DVD-R、DVD-RW、DVD R DL、DVD-RAM、DVD+R、DVD+RW、DVD+R DLと複雑になっている。

 現在、市場に供給されている対応機器は1台で何種類かの規格をカバーしているが、それでもDVD-R・DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、DVD-RAM、DVD-ROMの5つに大別される。

 専門家に聞くと、「用途に応じて機器で選ぶのがベスト」という答えが返ってきた。例えばDVDをパソコンだけで使用するならDVD+RW規格、DVDをプレーヤーやプレイステーションでも使用するならDVD-R規格、デジタルビデオカメラで撮影した映像を保存するならDVD+VR対応のDVD+RW規格、パソコンのバックアップで使用するならDVD+RW規格、多くの人に配布するならDVD-R規格というわけだ。

 「あくまでもここで、個人的にテストした限りのことですよ」と断って、取材した専門家が互換性の話をしてくれた。こうした知識を書店やパソコン量販店などの販売員全員が持っているとは考えられないし、一般ユーザーはまずそのようなことは考えない。

 「何を選んでいいか分からないなら、DVD-R規格が無難」と言われても、用途ごとに機器を選ぶべきという話を聞いたあとでは、何が無難なのかが理解できない。結局、読み取れないディスクがあることが前提なのだ。

■技術仕様書の解釈の違い

 東京・千代田区飯田橋にあるDVD制作会社。周辺にひしめく出版社から、書籍に添付するCD、DVDの制作を受託している。2階に上がると机の上にパソコンや再生機器がずらりと並ぶ。5年前ぐらいに発売された主要なパソコンやゲーム機、テレビ用再生装置を用意し、発注者(出版社)の要望に応じて再生の可・不可をテストするのだ。

 「これまではパソコン用ソフトの教習本や資格試験のテキストに添付するCD、DVDが中心だった。そういう人は主にパソコンで再生する。最近増えてきたのは通信販売のカタログや美容・ダイエット本。そういう本を手にするのは家庭の主婦で、テレビ用再生装置で見るケースが多い」

 なるべくカバレッジを大きく、より広くしてほしいというのが出版社の要望だ。そのため必要に応じて専用のプログラムを組み込んで、対応機器を増やすのだが、「それでも絶対の保証はない」という。

 原因は機器に組み込まれている半導体とプログラムだ。機器メーカーは製造コストを抑えるため、中国や東南アジアで組み立てている。現地で半導体を調達したりプログラムを作ることがある。粗悪品というわけではない。  「同じ規格に沿って作られていても、規格というのは技術仕様を記述した文書ですから、開発者ごとに解釈が違うこともある」のが原因だ。

■パソコンはほぼ全滅

 それに加えて、昨年4月に発売された片面2層記録式DVD-R(DVD+R DL)が問題をより複雑にしている。メーカーは既存のパソコンやDVD装置で読み取れるとしているが、実際は全く逆で、書き換え型DVDドライブを搭載している主要なメーカーのパソコンはほぼ全滅。今春発売された新モデルでようやくサポートされた段階で、既存のパソコンユーザーは当惑せざるを得ない。

 「出版物の編集にかかる時間やコストより、添付するDVDのテストをどう効率化するかがポイントになってきた」と、OAソフトの教習本などの出版で知られるローカスの編集担当者は語る。「それにかかるコスト増を、編集部門と原稿料で吸収するのは、そろそろ限界」とこぼす。

 これまでの出版物は紙に印刷した活字だったので、誰でも読むことができた。ところが読書離れが進み、パソコンとインターネットが普及したために、いまや出版界では電子化への対応が必須となっている。

 国語辞書や漢字字典が電子辞書に何冊も搭載され、百科事典や用語集がCDやDVDで提供されている。出版物は紙+電子メディアが当たり前という時代だ。

 にもかかわらず、同じ規格で作られているはずのディスクが、読み取れたり読み取れなかったりする。機器メーカーの都合でコンテンツメーカーの負荷が高まり、結局は消費者が混乱する。携帯電話の料金体系や番号持ち運び制度に伴うシステムダウンも、事情はよく似ている。これが最先端のITか、と言いたくなるではないか。