「ITサービス業は果たして産業なのか。産業としての枠組みはどうなっているのか」──厳しい質問が飛び出した。5月31日に行われた情報サービス産業協会(JISA)新執行部の初会見。1兆円企業・NTTデータの浜口友一氏が会長に選任され、「日本を代表する団体」としての体裁は整った。売上高14兆6000億円、就業者数57万人という統計上の数字の陰に、要員派遣の多重構造が潜んでいるのは周知の事実だ。いっそのことシステム構築業、ソフトウェア作成業、IT技能者派遣業に整理したほうが分かりやすくなる、という声も聞かれる。これから2年をかけて協会が目指す「構造改革」とは何か。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

取引構造改革へ

■このままでは“ゆで蛙”

 JISAが「記者懇談会」を開いたのは2005年6月以来。当時の担当者が異動したこともあって、実質は新執行部発足の会見となった。浜口友一会長(NTTデータ:新任)を中心に、大田清史(アルゴ21:再任)、神山茂(ジャステック:新任)、小川健夫(日立ソフトウェアエンジニアリング:新任)、春日正好(アイエックス・ナレッジ:再任)、西條温(住商情報システム:再任)、有賀貞一(CSKホールディングス:再任)の副会長6氏が記者席と向き合った。

 やり取りがやや熱を帯びたのは「果たしてこの業界は産業といえるのか」という質問が飛んだときだった。

 「私はITにかかわるようになって40年だが、この業界は常に需要が供給を上回る恵まれた環境にあった。競争もなければ危機感をあおられることもなかった。産業の体を成していないではないか、と言われれば、その通りと認めざるを得ない」

 副会長の1人で、取引構造改革委員会を担当することになった有賀氏は言う。同委員会は今年度、ユーザー/ベンダー間の役割・責任分担を踏まえた契約モデル、外注管理の実態把握、情報サービス取引における請負と派遣の明確化などに取り組む計画だ。「このままだと、業界はぬるま湯にどっぷり浸かった“ゆで蛙”になってしまう」と危機感を示す。

 「ただ、メディアの皆さんに理解してほしいのは、この業界が最先端でハイテク、というのは妄想かもしれないということ。ITがコモディティ化していることを考えると、この業界の現状を“こんなもんかな”という目で見ることも必要」という。議論の出発点を確認しておこうというのだ。

 「いっそのこと、システム構築請負業、プログラム作成請負業、IT技能者供給業といったかたちに、業界をバッサリ整理するのも手だと思う」という記者席からの意見に、浜口氏は否定的な見解を述べなかった。「遅かれ早かれ、というより予想以上に早く、統合再編の波が押し寄せる」との見方を示した。

■「独立系」の意味するもの

 その会話を受けて、大田清史氏がマイクを取った。同氏が社長を務めるアルゴ21は、5月16日にキヤノンマーケティングジャパンによる株式公開買い付け(TOB)を発表したばかり。「売上高3000億円が第2グループ入りの必須条件」というのがTOB承認の理由だった。独立系がメーカー系やユーザー系に飲み込まれる、という業界再編の構図が頭をよぎったに違いない。

 「独立系というのは、メーカーディペンドのアーキテクチャでユーザーを囲い込んだメインフレーム時代の言葉。いまはオープン化の時代で、コンピュータメーカーのアーキテクチャにディペンドすることはない。私は独立系という言葉にとらわれず、特定のDNAを持っているか、自立するかどうかを重視したい」と大田氏は言う。

 大田氏がいうDNAとは、企業の出自、伝統的に強い分野、特徴的な技術領域を指す。金融、製造、商流、物流など業種特化、CAD/CAM、エンベデッドなど技術特化と言い換えていい。これに対して有賀氏は資本政策の観点から「メーカー系もユーザー系も自立しているとはとても言えない。資本系列に入れば自立はない」と切り返し、新任の神山氏が「独立性を維持し続けることが自立につながる」と強く答えるシーンもあった。

■相似形の連鎖を断ち切れるか

 ITサービス業界の構造は「相似形の連鎖」という特徴を持つ。元請け的な大手SIer(プライムSIer)は受注リスクを引き受けつつ外注先と委託契約を結ぶ。受注リスクとは、要員や資金の調達、進捗管理、トラブル対応などを指すが、成果物であるプログラムへの品質保証まで行っているケースは多くない。プライムSIerとサービスレベルやシステム品質の取り決めを行っているユーザーも多いとはいえない。情報システムは製造者責任法の適用を免れているためだ。

 外注先のソフト会社は要員を確保するために二次、三次の外注と再委託、業務委託の契約を結んでいく。受発注の多重構造がこうして生まれるのだが、興味深いのはプライムSIerがある案件では二次請け、三次請けに回り、別の案件では二次請けがプライムSIerの座に座ることが珍しくないことだ。

 企業に特徴がなく、たまたま案件と出くわすかどうかが、相似形の多重構造を深くする背景にある。

 ここで注意を喚起したいのは、売上高3000億円が勝ち残りの条件であるにせよ、そのときの業界がどのような景色か、という視点だ。20-30の突出した企業群を標高3000mの山に例えると分かりやすい。この山を海に置けば、その頂上は地図上に、大海に浮かぶ島として表記される。島と島は何の脈絡もなく点在し、周囲には平坦な海洋が広がる。

 一方、それを陸地に置けば、いくつもの山が尾根を連ね、すそ野に森が茂り川が流れ、湖があり、砂漠の向こうに草原が広がっている。突出した企業群は森や湖や草原の恩恵を受けてそびえ、人々はその山頂に立つことに憧れる。

 規模を追求する統合再編の動きは、特徴のある企業をスポイルする。結果として大海に浮かぶ島ができていく。情報サービス業の将来のグランドデザインは、大陸型でなければならない。それであって初めて分業と協調という産業構造が出現する。

 むろん、そのためには大規模システムに対応した工法の確立や、品質管理を手法の研究が欠かせない。それがなければ100m超の高層ビルを建てることなどできないし、標高3000mの山頂を極めることもできない。要員を集め、1人当たり、1月当たりで利益をあげる収益モデルを否定する必要はないが、それだけで「産業」たり得るのか。JISAが早急に取り組むべき課題は、まさにこの一点にある。