松本市では20秒前に警報

救助隊に住民情報が届かず

 7月16日午前10時13分ごろに発生した中越沖地震。震度6強の激震が新潟県柏崎市、長岡市、長野県飯縄町などを襲い、死者10人、負傷約1000人、損壊家屋約1000棟の大きな被害が出た。火災が発生した柏崎刈羽原発の安全性や自動車メーカーの操業中止など“その後”の話題がかまびすしい。そうした報道に埋没しているのが、情報の利活用だ。緊急地震速報伝達システムはどのように機能したのか、救援と復旧に情報はどのように役立ったのか。(中尾英二(評論家)●取材/文)

 緊急地震速報伝達システムは、複数の観測地が計測した震源のP波(初期微動)から震源を割り出し、実際の揺れを起こすS波(主要動)が到達するまでの時間を通知する。現在は実証実験として消防署や地方公共団体、交通機関、病院など社会インフラ系機関にシステムが導入されている。今年10月から地上波デジタル放送などで一般家庭や個人にも情報が提供されることになっている。

 今回の中越沖地震は柏崎市の沖合9キロと直近だったため、同市では地震の揺れがくる3秒前にシステムが動作、避難したり市民に警報を発する余裕がなかった。また市内に設置された震度計の計測データが気象庁に届かないケースがあった。データ伝送用の通信回線が断絶したのが原因だった。

■緊急車両の出動を準備

 しかし長野県松本市では、本震が到達する20秒前に市役所や病院の館内に「地震がきます」という音声が流れた。休日のため市役所には一般市民はいなかった。出勤していた職員が避難、病院では看護師が入院患者を保護したり手術用機材の保全に対応した。また震源から200キロ離れた首都圏(震度3-4)では40秒前にシステムが動作、高層ビルのエレベータや鉄道が運行を停止した。

 昨年春、システムを導入した千葉県市原市消防局。市役所屋上に設置した監視カメラが24時間・365日、市街の様子を指令室の大型スクリーンに映し出す。本震到着までの40秒間で海浜部に展開する化学工場への警報発信、消防車や救急車の緊急出動態勢を準備した。

 「30秒あれば、消防署の建屋から緊急車両を150メートル走らせることができる。災害に対応する緊急車両を安全な場所に移すことが、被害を最小限に食い止めることにつながる」という。


■パソコンの落下などで済む

 柏崎市では、震度6強の揺れでNTTの電話回線300回線が途絶した。送電線の切断で電源が切れたのが原因だったが、自家発電装置が起動して数分後に復旧した。だが柏崎市が運用する防災無線システムは地震発生から10日経っても復旧しなかった。

 新潟市に本社を置くBSNアイネットによると、「コンピュータシステムの被害はまったくなかった」という。3年前の中越地震のときは、長岡市周辺の市町村に設置されていたパソコン、サーバーが転倒、同社の技術者が地震発生の翌日から現地に入って復旧に当たった。「今回の地震は柏崎市が最も大きな被害を受けたが、防災対策が進んだこと、休日だったことが幸いした」(宮木高志常務)。電子自治体向けの文書管理システムで全国にユーザーを持つクリプトソフトウェアは柏崎市に本社を置く。柳正栄社長の第一声は、「市内の状況はひどいものですよ」だった。当日、オフィスで仕事をしていたときド~ンときた。「瞬間的に、危ない!と判断してオフィスから出たところで、立っていられなくなった」。

 「地震が収まったのでオフィスに戻ると、もうメチャクチャ。机の上のパソコンは床に落っこってるし、書架が倒れていた。被害はその程度で済んだが、逃げるのがちょっとでも遅れていたら、と思うと背筋が寒くなる」と状況を語る。

 同社のオフィスは1階が駐車場だ。1964年の新潟地震から40年目の04年、「そろそろ大地震がくるかもしれない」と1階の柱を補強し、開発用の機材を別の場所に移しておいた。「補強してなかったらペチャンコだったかもしれません」と、胸をなでおろす。

 柏崎市の行政情報システムは、翌日から正常に稼働させることができた。耐震設計が施されている柏崎情報開発センター(KASIX)に、03年からアウトソーシングしていたためだ。ところがメールでの問い合わせが殺到したため、新潟県庁のWebサイトでも情報を受発信できるようにした。インターネットの普及で情報システムへの致命的な被害が軽度で済むようになった。

■「個人情報保護」がネックに

 緊急地震速報伝達システムの有効性は証明されたが、課題も浮き彫りになった。例えば通信回線が断絶したり中継局の電源がダウンした場合、的確な情報が収集・伝達されない弱点がある。

 首都圏では3分間以上にわたってゆっくりした揺れが続いた。長周期振動と呼ばれるもので、一般家屋には大きな影響がないものの、超高層ビルでは上層階の揺れが増幅される可能性がある。高層階に人が取り残されたり、看板や照明器具などが落下する危険性も増える。地震速報システムが機能しても、過密都市のリスクは解消されない。

 もう一つ、被災者の救援でネックとなったのは「個人情報の保護」という障壁だ。市内に住む要介助者(高齢者や障害者)のリストが救援に向かう市民や消防隊員に提供されなかった。倒壊家屋に生き埋めになった人を救助しようにも、どこにどのような人が居住していたのか、無事に避難したかどうかが確認できない状態が続き、これが救助活動を遅らせる原因の一つになった。情報化時代の「落とし穴」だ。

ズームアップ
緊急地震速報伝達システム
 

 気象庁の解析システムとユーザー向けの受信システムで構成される。原則は震度4以上の地震。振動波計測地点は全国約1000か所で、今年3月末現在、地方公共機関、防災関係機関、電力・ガス・交通・通信などインフラ系民間企業など400団体・法人で実証実験が行われている。
 気象業務支援センターから民間気象事業者→通信事業者→ユーザーと情報が伝達される。このため情報の遅延や回線トラブルが懸念されている。
 防災関連機関や通信・放送機関と同様、一般ユーザーの携帯電話やカーナビゲーション・システムなどにも、気象庁から情報が直接送信できるようにすべきとの意見もある。