IT業界のグランドデザインを問う SIerの憂鬱

<IT業界のグランドデザインを問う SIerの憂鬱>第30回 広がる中央と地方の格差

2007/11/05 16:04

週刊BCN 2007年11月05日vol.1210掲載

 地方都市だと、規模は小さくても上流工程を受け持つ企業が活躍の場を得ることがある。同業者が少ないためだ。その一方、既存の受託型SIer(受託計算センターや受託ソフト開発会社)に重くのしかかるのは、中央と地方の格差だ。地域オフショア、人材供給源の位置づけからいかに脱皮するか。加えて、受託型からサービス型にビジネスモデルを転換するのが容易でないという問題が浮上している。ブロードバンド回線網が地域の隅々に行き渡っていないデジタルデバイドが深刻な影響を与えている。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

デジタルデバイドが直撃

34県の売上高は全体の15%


 経済産業省が7月に公表した2006年分の特定サービス産業実態調査。このうち情報サービス産業については大幅な見直しが行われ、「情報処理・提供サービス業」と「ソフトウェア業」の二本建てになった。

 それによると、「情報処理・提供サービス業」は5471事業所(4644社)で売上高は5兆2877億4400万円、「ソフトウェア業」は1万784事業所(8828社)で13兆9633億2000万円だったという。両者を合わせると1万6255事業所(1万3472社)で19兆2510億6400万円だ。従来の調査とは対象企業数が大きく異なるため、集計値が06年分で断裂することとなった。

 「より正確を期するため」という経産省の説明に、SI業界は一応の理解を示しているものの、統計の連続性が途絶えたことに戸惑いは小さくない。特に「企業数は全体の1割だが、会員企業の売上高を合計すると6割をカバーする」と豪語していた情報サービス産業協会は、痛手だった。元になる売上高が14兆5000億円から19兆2500億円に跳ね上がった結果、カバレッジが45%に低下してしまったのだ。

 それはともかく、それぞれの数字から東京、愛知、大阪の3都府県を除くとどうなるだろうか。情報処理・提供サービス業は2786事業所(2465社)で1兆1444億9300万円、ソフトウェア業は5305事業所(4361社)で4兆487億2200万円。さらに政令指定都市のない34県に絞ると、情報処理・提供サービス業は1326事業所(1181社)で5229億1100万円、ソフトウェア業は2985事業所(2431社)で2兆3059億6900万円となる。

 仮にこの34県を「地方」とすると、情報サービス産業における地方のウエイトは、事業所数の26.5%、企業数の40.9%だが、売上高は14.7%に過ぎない。企業数の構成比に対して事業所数のウエイトが低いのは、「単独事業所」、つまり支社や支店がない企業が多いことを示している。ちなみに34県の従業員数は15万2200人で全体の18.1%、1人当たり売上高は1863万円で、全国平均の81.4%だ。

地元案件の4割が還流


 おおまかにいうと、地方の情報サービス会社の売上高は全体の15%、従業員1人当たり売上高は東京などの大都市圏の8割ということになる。他の産業と比べ、情報サービス産業は圧倒的に都市型に傾斜している。システム開発案件が大都市に置かれる大手企業の本社から発注されるためだ。

 神奈川県のあるソフト会社経営者は言う。

 「実際は県内で発注される案件も、いったん東京の会社が受注し、その子会社を通じて地元に再発注される。金額ベースで調べると、県内で発生したシステム開発案件の6割以上が東京に流れ、そのうちの6割、つまり案件全体の4割が地元に還流していた」

 なぜ神奈川県内で発生した仕事が東京を経由して神奈川県に還流するかといえば、「ユーザー企業にIT技術者を派遣(もしくは出向)させなければならないため」だ。

 「東京から地方都市に技術者を出向かせるより、地元で調達したほうがコストを低く抑えられる」

 この経営者の言葉は実態の一例に過ぎないので、全体に敷衍して考えるのは危険だ。しかし、同じような話は他にいくらでもある。

 「神奈川に還流した仕事が再分割されて、北海道や沖縄に流れることもある」

 と、その経営者は言う。

 「その地域にも元請け―下請けの関係がある。結果として多層下請け構造は際限なく広がっていく。もともと地方の人件費は大都市より1-2割低いので、要するに大都市圏のSIerにとって地方の情報サービス会社は、国内オフショア先のようなもの」

 これがいつまでも続けば、地方の情報サービス産業は大都市の下請けに固定化され、中央と地方の格差は決して縮まらない。北海道や長崎県、沖縄県などの地方公共団体が取り組む「IT需要の地産地消」の動きは、その突破口になるに違いない。

情報リテラシーもネック


 JR新潟駅の新幹線口から徒歩10分。片側3車線の大通りに面してBSNアイネットの本社が建つ。新潟市と至近距離にある旧紫雲潟町(現新発田市)に、第2データセンターを建設中だ。県内に北陸電力、東京電力の発電所があり、電力のバックアップ体制は万全、先に柏崎市を直撃した中越沖地震でも、3年前、新潟市内に竣工した第1データセンターはビクともしなかった。

 富士通、NEC、日立、日本IBMの主要4メーカーのサーバーと大容量ストレージを設置、インターネットでユーザー企業のデータを預るディザスタ・リカバリ・サービスのほか、アプリケーション処理サービス、サーバー・ホスティングなどを展開、わずか3年で第1センターは満杯になった。

 第2センターでは、地元企業向けにASPサービスを提供する計画だ。「受託型からサービスモデルに転換を図る」と品田勇会長は展望を語る。

 「新幹線ができたおかげで、新潟は東京と直結した。それで何が起こったかというと、人材の流出。県内での採用が厳しくなった。そればかりか、当社も東京からの受注が全体の売り上げの半分近くに増えた。地元経済に貢献するという会社設立の初志に戻るときだ」

 第2センターはそのためのものだが、困った問題があった。

 「大容量・高速の通信回線がない。データセンターまでは自力で幹線を引けるが、中堅・中小企業にまでブロードバンドが行き届いていない」というのは、宮木高志常務だ。

 むろん、地域の企業の情報化に対する意識が低いことも背景にある。多くの企業は事業規模が小さく、情報化の推進は経営者が兼務、パソコンとインターネットがせいぜいという状況だ。ここに「ASP」だの「オープンソース」だのを提案しても、理解が得られない。

 中央と地方の情報リテラシーとデジタルデバイド。これを解消する方策もまた、地域の情報サービス会社の将来を左右する問題だ。
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