著作権がネックに

リース契約も障害の要因

 道路特定財源の使途が道路以外に使われている問題に関連して、新しい疑問符が浮上している。過日、テレビ朝日が伝えたところによると、財団法人道路保全技術センターが運用している道路管理データベースシステム「MICHI」は毎年の運用に25億円もかかっているのに、年間アクセスが6000件程度と利用率が悪い、という。そればかりか公開調達といいながら応札は常に1社しかないのはいかがなものか、と噛みついたのだ。システムの著作権が他社の参入を阻害しているという。道路特定財源問題が公共調達問題に飛び火したかっこうだ。(佃均(ITジャーナリスト)●取材/文)

■正式な手続きなしの不透明さ

 年間のアクセス6000回という利用頻度や、年間の運営費25億円が多いか少ないかは主観的な評価に属する。ただテレビ朝日によると、MICHIシステムは国土交通省が発注したものでなく、同財団が独自の判断で構築したものだそうだ。同財団が「こんなシステムを作ったんだけど」と国交省に持ち込んだところ、どういうわけか国交省が所管するシステムに編入されたという。民間ではとても考えられない話だ。

 預り知らない第三者が新聞社の記事データベースを断りもなく作って持ち込んできても、その新聞社の経営陣が自社のシステムに組み込むはずもなく、反対に権利侵害で訴訟ということになるかもしれない。MICHIシステムのベースとなっている道路情報は当初から国交省が提供していたというから、摩訶不思議な話ではある。

 要するに、正式な手続きを踏まずに税金を投入する仕組みがあるということだ。一般国道として4車線の高規格道路を建設しておいて、開通したら高速道路にしてしまうのとよく似ている。そのプロセスには、何かしら不透明感が漂っている。背景に、いわば官官癒着的な構造があると指摘されてもやむを得まい。

■ソフトウェアの価値論

 それはそれとして、ITの立場で気にかかるのは、システムの運用保守・改造やデータの更新にかかる調達が公開で行われていながら、著作権が障壁となって実質的に1社に限定されているという問題だ。他社が参入しようとしても、既存のデータ構造を解析することから始めなければならず、それではとうてい納期に間に合わない。そればかりか採算割れという事態に陥る。つまり、事実上、特定業者が独占することになる。随意契約とすべきなのに、なまじ公開調達にするので矛盾が露出してしまう。

 これは自民党e─Japan戦略強化委員会が2002年3月に指摘した“脱レガシー”論の根拠でもあった。そのとき槍玉にあげられたのは社会保険庁、職業安定所など十数件だったが、外郭団体まで広げると、対象となるシステムは数倍に膨れ上がることになる。

 関連して思い出すのは、電子自治体システムの構築で話題になった佐賀市のケースだ。同市の新システムを受注したのが韓国のソフト会社というだけでも大きな話題となったが、聞くところによると、旧システムを請け負っていた業者との間で、別の契約を結ぶ、結ばないでひと悶着があったという。そのときもメインフレームで管理していたデータベースの著作権が焦点になったらしい。

 なるほど、市のデータは市民のものである、という市の主張は誰からも理解されるだろう。なぜなら市民の税金で構築したものだからだ。市の情報システムも市民のもので、それをどうしようと自由ではないか。

 一方で業者側の理屈にも一理がある。データベースは市の要求に応じて当社が設計したもので、そこに独創性が織り込まれている。しかもこれまで、入力や修正、データベースの保守・改造は、通常の運用保守の一環として当社が行ってきた。元となった情報は市のものだが、コンピュータにかかるデータは当社の著作物でもある。それを無償で引き渡すことはできないというわけだ。

 いつまでもこの問題で揉めていては新システムに移行できないので、結局は旧システムの運営保守を担っていた業者が折れたようだが、IT業界の立場でいえば納得できる話ではない。受託で開発したプログラムであっても、開発者が著作権を留保して初めて「ソフトウェアの価値」があることになるからだ。

■契約の先に権利確定の難問

 そのような事例は市町村にとどまらない。システムの構築や保守に際して、どのような内容を契約に盛り込むか、文言の解釈を含めて両者間で取り決めが行われていない場合、お金を出した側と作った側の権利関係が不明瞭になってしまう。家庭用の乗用車や家電製品は買い取りが前提なので、改造も廃棄もユーザーの自己責任の範囲内で自由にできる。

 ところが情報システムは金額が大きいため、端末までまとめてリース契約とするケースが少なくない。そのほうが予算上の負荷も軽く、計画を立てやすいのだ。しかもトラブルが発生しても外部業者が責任を負って復旧するので、ユーザーは安心して使える、というメリットがある。

 しかし改造やリプレースとなると、ユーザーは使用権を持っているに過ぎない。受託した事業者が所有権を持っているわけだから、おのずから第三者が立ち入ることはできない。MICHIシステムも佐賀市の旧システムもおそらくそのような契約と推測され、これが公開調達を有名無実化する要因となっている。

 ここ数年、国会で論じられている調達の透明性は、実はプロセスだけの問題ではない。制度やルールを整備しても、実務上では契約という壁が立ちはだかる。契約の壁を乗り越えた先にあるのは権利関係の確定という難問だ。脱レガシー、オープン化のかけ声は勇ましいが、システムの現場は“キレイゴト”では済まない。

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MICHIシステム
 
 住所を入力すると、指定された道路が表示され、工事や災害、舗装状況などの属性情報も示される。管理されるのは騒音、学区(通学路)、勾配、幅員、交差点、標識、トンネル、歩道橋、落石・雪崩防止施設など60項目に及ぶ。舗装状況は5段階表示され、それを元に補修工事の必要性や工事を実施した場合の影響、迂回路の設定といった計画立案にまで役立てられる。
 一般には公開されておらず、国交省や自治体の道路関係者の専用システムとして提供されている。