群を抜くバッテリ技術

 いち早くリチウムバッテリを搭載した凄い車が現れた。それも、あの「ロータス・エリーゼ」そっくりのEVスポーツカーだ。

 ここシリコンバレーのテスラモータース(Tesla Motors)は、2008年に高級スポーツカーのロードスターを発売し、すでに500台以上を出荷した。価格は10万9000ドル(約1000万円)から。購入者にはカリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガーや映画俳優のレオナルド・ディカプリオ、Google創業者のセルゲイ・ブリンなど著名人が名を連ねている。


 同社はまた、今年3月、セダン型のモデルSを発表した。価格は5万7400ドルからで、7人乗り。発売予定は2012年だが、すでに1000台以上の予約が入っている。1回の充電走行距離はロードスターが220マイル(約400km)、モデルSはバッテリにより160、230、300マイルが選べる。他のEVの走行距離が80~100マイルであることと比較すると、テスラのバッテリ技術は群を抜いている。

 それを支える基盤技術は電池の発熱制御だ。ロードスターの場合、市販のリチウム電池(日本製)6831本で構成した11の電池ユニットを電源ボックスとし、それぞれのユニットにセンサーや制御回路を組み込み、リチウムの安全性にも特許技術の検出制御システムを搭載している。

真のベンチャー精神

 テスラのCEOはイーロン・マスク(Elon Musk)氏。1971年生まれ、38歳。テスラには個人マネー7000万ドルを出資した。彼の生涯の事業テーマは「インターネットと宇宙、そしてクリーンエネルギー」の三つだ。

 まず、1999年にインターネット上のマイクロペイメント(小口決済)のPayPalを共同で創業、2002年にはeBayに15億ドルで売却した。次に2002年、宇宙旅行のコストを大幅に下げるSpaceXを立ち上げ、宇宙船の回収、再利用にも成功。これが2番目の宇宙事業だ。そして現在はテスラでEV開発の傍ら、カリフォルニアでも有数のソーラーパネル設置会社ソーラーシティー(Solar City)にも出資。いわく、「日常、80~100マイル走るための電力は太陽電池だけで十分なはずだ。そのために家庭にはソーラーパネルを設置し、いずれはEVと連動させる」という夢を抱いている。自分が考えたことを夢から現実に移す。これこそが、シリコンバレーの本物のベンチャー・スピリットだ。

 サブプライムに端を発した未曾有の不況。しかし、テスラの販売はカリフォルニアから全米へ、そして英国にも伸びた。GMやクライスラーの会社更生法適用を尻目に「クリーン」の追い風を受け、今年2月にオバマ政権が立法化した経済再活性化策に沿って、先月、エネルギー省からEV製造工場建設のための低利融資4億6500万ドルの獲得に成功。ほぼ同時に、独ダイムラーがセダン型とバッテリーシステムを供給することを条件に10%を出資することが決まった。これで念願のセダン型出荷も、2012年には大丈夫だ。

【著者紹介】
八木 博
1995年から米国在住。01年、三菱化学を早期退職し、シリコンバレーでIMAnet Inc.設立、CEOに就任。現在はクリーンテック関連の技術・市場・特許調査とスタートアップおよび大手企業の連携マッチングを手がける。04年、シリコンバレーの大学連携団体JUNBAを創設。09年6月までシリコンバレーの異業種交流団体SVMFの会長。現在、両団体のアドバイザーを務める。