“風”になった。体が急に軽くなって、浮いた感じ。直前まで体中が痛くて動けないくらいだったのに、どこまでも走り続けることができる。まったく失速する気がしないし、走ることが楽しくて仕方がない。
100キロの距離を走るウルトラマラソンの終盤で、そんな貴重な経験をした。フルマラソンでのランナーズハイとは違う特異な状態になった。うれしさのあまり“風になった”と自慢してみたが、残念なことに大抵の人にとって興味の範囲外らしい。共感してくれたのは、ウルトラマラソンを趣味とする人たち。みんな同様の経験があるという。フルマラソンよりも、ウルトラマラソンという人は、風になる魅力に取りつかれたに違いない。
マラソンには、ハーフやフル、ウルトラなどがあるが、走るという行為は同じ。でも、まったく違うスポーツといっていいほど、走り方が違う。おもしろさを感じるポイントも違う。フルには苦しい“30キロの壁”があり、それを乗り越えてのゴールが醍醐味。この感覚は、ハーフやウルトラにはない。ちなみに、ハーフの魅力については、感じたことはない。何度も走っているが、まだまだ経験不足ということだろう。
SIerに対する批判に「いつまでもウォーターフォール型の開発に固執している」というものがある。そこには「アジャイル開発を取り入れるべき」という知ったかぶりのアドバイスがついてくる。アジャイルはウォーターフォールの代替ではなく、それぞれに向き不向きがある。マラソンにたとえるなら、大型案件で採用されることの多いウォーターフォールがウルトラで、中型以下の案件に多いアジャイルがフルやハーフといったところか。
大手のSIerほどウォーターフォールを得意とするが、今後はアジャイルを採用することが増えるかもしれない。なぜなら、大手SIerがIoT事業に本腰を入れ始めているからだ。デバイスの進化が激しいことから、IoT関連のシステム開発ではアジャイルを採用すべきとされる。ただ、IoT事業がどこまで伸びるかは、なかなかみえてこない。
ところで、実業団のテニス選手に“風になった”と自慢してみたら、テニスでも同様のことがあるという。趣味のマラソンとはレベルの違う勝負の世界だが、アスリートに近づいた気がして、ちょっとうれしい。
『週刊BCN』編集長 畔上文昭
略歴
畔上 文昭(あぜがみ ふみあき)

1967年9月生まれ。金融系システムエンジニアを約7年務めて、出版業界に。月刊ITセレクト(中央公論新社発行)、月刊e・Gov(IDGジャパン発行)、月刊CIO Magazine(IDGジャパン発行)の編集長を歴任。2015年2月より現職。著書に「電子自治体の○と×」(技報堂出版)。趣味はマラソン。自己ベストは、3時間12分31秒(2014年12月)。