イノベーションの事業は、SES(System Engineering Service)が中心のソフトウェア開発、そしてソフトウェア検証・品質管理が柱となっている。競合が多く、差異化が難しいSESと違って、検証サービスでは同社の競合となる企業がほとんどないという。理由は、単なる「ミスの検出」ではなく、第三者の目線で「製品づくりに貢献する」との方針にある。売上比率は、ソフトウェア検証・品質管理が約7割で、システム開発が約3割。売り上げでは劣勢のSES事業だが、撤退することは考えていない。(取材・文/畔上文昭)
SIは自動化が進むかも

山路洋子 代表取締役 イノベーションは、もともとSESを中心にビジネスを展開していた。現在でもSESは主力事業の一つだが、2014年4月に以前の関連会社からの事業譲渡により、ソフトウェア検証・品質管理の事業に参入し、二本柱としたことで経営の安定化を実現している。
新たな事業を始めた背景について、イノベーションの山路洋子代表取締役は次のように語る。「SIの現場は、人手不足が続いている。PHPやJavaができればいいという状況。ただ、それがいつまでも続くとは限らない。自動車が自動走行する時代だから、システム構築も自動化が進むのではないか。自動化が進めば、SESの需要がなくなってしまうかもしれない」。もちろん、まったく需要がなくなるとは考えにくいが、将来に備えるためにも、SESに頼らない体制が必要というわけだ。
では、なぜソフトウェア検証・品質管理なのか。「システム開発の工程において、上流の要件定義と下流の検証はなくならない。この部分はアナログな作業が必要だから」と、山路代表取締役。上流の要件定義は参入が難しいが、下流の検証であれば参入しやすい。そのためイノベーションは、ソフトウェア検証・品質管理に注力している。
エンジニアの育成が課題
SI業界について、SESを提供する立場から山路代表取締役は次の課題を感じている。「元請けのSIerは、リスクを回避するために、1か月といった短期で契約するケースがある。エンジニアからすると、短期契約だとわかっていたら、そのプロジェクトに気持ちを入れて取り組むことが難しい」。いいものをつくるためには、エンジニアがプロジェクトの開始から終了までかかわるのが理想的。プロジェクトに深く入り込むことは、エンジニアが成長する機会になるからだ。さらに、元請けのSIerが未経験者を受け入れないので、下請け企業で人材が育たないという構造的な問題もある。
人材育成の機会を模索するなかで、イノベーションが出した答えがソフトウェア検証・品質管理事業への人材投入である。「検証サービスは、テスト仕様書をみればできる部分があるため、未経験者でもいい。PHPやJavaといった技術的なノウハウが不要なことから、人材も集めやすい」と、山路代表取締役。イノベーションの検証サービスは、プロジェクトに対して第三者であることのメリットを生かし、当事者では見落としがちな部分まで検証することを強みとしている。当然、経験やノウハウが必要とされるが、未経験者でもある程度の業務がこなせるため、取っかかりとしてはエンジニアよりもハードルが低いという。
検証の経験をSESへ
イノベーションのソフトウェア検証・品質管理事業は、今のところスマートフォンやタブレット端末のアプリが主な対象となっている。エンタープライズ分野のシステム開発を担うSES事業とは違う現場になるが、相乗効果を狙うため、徐々にエンタープライズ分野にも検証サービスを広げている。「検証サービスは元請けに近いポジションで受注できるので、SESとの相乗効果が期待できる。また、検証サービスをこなすことで、技術的な知識も身につくため、エンジニアを育成するきっかけにもなっている」と山路代表取締役は語る。
検証サービスの有効性を理解しているSIerはまだ少ないという。そういう事情からか、SESよりも人月単価が低いとのこと。山路代表取締役が、検証サービスをきっかけにしてエンジニアを育てようとしているのは、そのためだ。
また、検証サービスには、SESとの相乗効果や人材育成以外の意義もあるという。「検証サービスは、表舞台には立たない裏方の仕事。ただ、高品質なサービスを提供できれば、製品の品質が上がり、それが企業力へとつながっていく。製品の品質が向上すれば、ユーザーは安心して使うことができる。最終的には検証サービスが社会貢献になると考えている」と、山路代表取締役は使命感をもって検証サービスに取り組んでいる。