「自由に働きたい人が増えている」と、楽堂の高橋こずえ代表取締役。同社はシステム開発のテスト工程を請け負う事業を展開しており、場所や時間にしばられない働き方を望むフリーのエンジニアを対象に、クラウドソーシング方式で作業を委託している。登録しているテストエンジニアは約2000人で、現在も増えているという。テスト工程は作業を細分化しやすいことから、クラウドソーシングを適用しやすい。そこに働き方の多様化という時代の要請が追い風になっている。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 楽堂
所在地 東京都新宿区
資本金 1000万円
設立 2006年5月
社員数 15人
事業概要 教育ソリューションの開発・提供、オープン系システム開発、クラウドアプリケーションの開発、ソフトウェアテスト「TESTERA」の運営・保守
URL:http://www.rakudou.co.jp/ 主婦の活躍の場として

高橋こずえ
代表取締役 SES(System Engineering Service)を事業の中心としていた楽堂だが、そのままでは会社の特徴を見出せないとして、会社設立の約4年後となる2010年にテスト事業に参入することになる。「米国でクラウドソーシングが注目され始めた頃で、日本でも同様の取り組みができないかと考えていた」と、高橋代表取締役は当時を振り返る。クラウドソーシングには、テスト工程が適用できると考えたわけだ。「システムの開発工程はエンジニアが深くかかわるため、個人の都合にあわせて作業を行うことが難しい。テスト工程なら作業を細分化しやすいため、エンジニアの都合にあわせて作業を発注しやすく、クラウドソーシングに適している」(高橋代表取締役)。また、テスト工程は専任のテストエンジニアが取り組んだほうが、品質が向上するとの思いもあった。テスト工程には、独自のノウハウが必要とされるからだ。
元請けのSIerにもテスト工程を外注したいというニーズがあったことから、テスト事業は徐々に軌道に乗っていく。テストエンジニアの募集は、クラウドソーシングの考えに則り、インターネットを活用。登録者は順調に増え、現在では約2000人のテストエンジニアを確保している。
「フリーのエンジニアのほか、元エンジニアの主婦からの応募も多い。出産などを機に退職した女性のなかには優秀なエンジニアが多く、実際、主力として活躍している。テスト工程は細かな作業があることから、女性に向いているのかもしれない」(高橋代表取締役)。また、現在では未経験者でも教育からサポートできる体制を整えるなど、テストエンジニアを希望する人たちのニーズに応えている。
テストの上流工程へ
テスト工程の重要性は、システム開発の関係者なら誰もが理解しているはずだが、理想と現実が必ずしも一致するとは限らない。「システム開発がスケジュールよりも遅れていたり、開発費用が膨らんだりすると、そのしわ寄せがテスト工程にくる」と、高橋代表取締役は開発現場の問題を提起する。楽堂はテストエンジニアのプロ集団として、厳しい条件のなかでも結果を出すことに取り組んできた。
テストエンジニアには、人件費の単価がSEやプログラマよりも低いという課題もある。「日本では、テストエンジニアに対する評価がまだ低い。SEやプログラマの次ではなく、独自のノウハウが必要。そこを評価されるようにしたい」と高橋代表取締役。単価を上げるために、テストの技法を高めたり、テストの計画や設計をしたりするなど、テストの上流工程にも取り組んでいる。より付加価値の高いサービスを提供することで、その内容にふさわしい対価を得るという考えである。
結合テストは自動化できない
楽堂のテスト事業は、同社の売り上げ全体の約3分の1を占めるという。システム開発事業も創業時から継続して取り組んでいるものの、高橋代表取締役はテスト事業を伸ばしていきたいと考えている。テスト事業が同社の競争力を支えていることと、将来性も見出しているからだ。
「テストの自動化ツールも普及してきているが、有効なのは単体テストまで。結合テストは、システムの仕様などを理解していないとできない。この部分は人手が必要となる。テストは量よりも質。まだまだ事業拡大の余地がある。優秀なテストエンジニアを集めたり、スキルをつけるための教育プログラムを充実させたりして、より多くのテスト案件に対応できる体制を整えたい」。
テスト事業を展開する企業は、ほかにもある。ただ、多くの企業は動作検証が中心のところが多く、システムの仕様にまで入り込んで検証するケースは少ない。楽堂の強みは、企業システムの開発工程をしっかり理解したテストの実施にある。今後も同社の強みを強化して、テスト事業の拡大を目指していく考えだ。