2016年2月4日、ニュージーランドのオークランドで、日本を含む12か国の代表が参加した環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)の署名式が行われた。
昨年10月のTPP協定大筋合意以降、文化庁の文化審議会法制・基本問題小委員会において、著作権法のTPP協定対応について検討が重ねられてきたが、法改正の方向が定まりつつある。今回そのすべては紹介できないが、二つほど改正のポイントを解説する。
まず、「著作物等の保護期間の延長」。現行著作権法では著作権の保護期間は個人の場合、著作者の死後50年までだが、TPP協定では死後70年までとすることとされており、これにあわせて保護期間が延長される。団体名義の著作物の保護期間と実演家とレコード製作者の著作隣接権の保護期間も50年から70年になる。映画の著作物(公表後70年)についてはTPP協定に定めがないため今回の改正は見送られる。
次に、「著作権等侵害罪の一部非親告罪化」。TPP協定では「著作権、実演家の権利又はレコードに関する権利を侵害する複製に係る罪のうち、故意により商業的規模で行われるものについて、非親告罪とすること」と定められている。現行著作権法では複製権侵害罪は親告罪、つまり刑事訴追の際には著作権者などの告訴が必要だ。これが、有償で販売されている著作物について、著作権等侵害罪のうち侵害行為の対価として利益を得たり、著作権者などの利益を害したりすることを目的にした海賊版の作成、譲渡、公衆送信は著作権者の告訴が不要(非親告罪)となるようだ。
非親告罪化については、TPP協定交渉中から「二次創作」を萎縮させるなどの意見が多く出されたこともあり、改正法では、どの場面において非親告罪になるのかが明確になるようだ。とはいえ、改正後においても、二次創作物のうち、著作権者の許諾を得ずに創作した場合のリスク、すなわち著作権者などから告訴されることがなくなるわけではなく、現行法と変わるものではない。
順調にいけば今年中には改正著作権法が成立する見通しだ。ただし、改正法の施行日はTPP協定の発効日となる。私が所属するACCSでも、あらゆる機会を通じて幅広く法改正の内容や意義などについて普及、啓発をしていく。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。