Javaよりも生産性が高いプログラミング言語「Scala(スカラ)」技術をテコに、長野の情報サービス産業を活性化したい──。ダイキチ・ドットネットの池田成樹社長は、昨年11月に本社を東京から長野県軽井沢町に移した。福岡県がスクリプト言語の「Ruby(ルビー)」を起爆剤の一つとして活用し、IT産業の集積度を高めた先例もある。Scalaをはじめとした先進的な技術を起爆剤に使うことで、長野県のIT産業の競争力を高められると考え、本社を移転するとともに、地場ベンダーとの協業に取り組んでいる。
Company Data会社名 ダイキチ・ドットネット
所在地 長野県軽井沢町
資本金 300万円
設立 2000年10月
事業概要 2015年11月に本社を長野県に移転。Javaの技術を生かしつつ、Javaよりコード数が少なく、生産性や品質が高まるプログラミング言語「Scala」活用を切り口に、長野地場SIerとの連携強化を進めている
URL:http://www.daikichi.net/ 客先常駐、受託開発いずれも不振

池田成樹
社長 池田成樹社長が2000年に著した『やさしいJava入門──講義形式でじっくりマスター』(カットシステム)は、シリーズ全体で1万部の販売冊数を超えており、技術書としては異例の第3版を重ねる人気本である。わかりやすい解説が高く評価され、一部の技術系の学校では教本として採用され、池田氏といえば『やさしいJava入門』の著者としてのほうが知名度が高いほど。
2000年に起業した池田社長は、起業するときのファーストユーザーに、小売店や飲食サービス、ホテル業などが多く、商売繁盛を願う顧客の印象に残りやすいよう、社名には縁起がいい「大吉」を片仮名にして「ダイキチ・ドットネット」とした。ネットベンチャー真っ盛りの頃で、本社も渋谷にほど近い恵比寿に構えた。
ソフト開発会社として、起業当初はユーザー先に常駐して開発する、いわゆる「客先常駐」をしていたが、社長である池田氏自身が会社に不在のままでは社長業がおろそかになってしまう。そこで業務アプリケーション開発の一部分を丸ごと請け負う「受託開発」に挑戦するが、納品するまで売り上げが立たないことから、今度は資金繰りに窮する局面が出てくるなどうまくいかない。四苦八苦しながら激務をこなしているなかで、池田氏は過労からくる体調不良に襲われる。
頭数と値段だけを求められて葛藤
忙しい仕事の合間を縫って技術書の執筆を続け、共著も含めれば10冊余りを上梓し、書籍の評価は高いものの、一方で「いくら本が売れても、客先常駐や受託開発のビジネスで、その技術力があまり“売り”につながらない」(池田社長)葛藤を抱えてきた。つまり、ユーザーは開発人員の頭数と値段を求めているのであり、先進的な技術が正しく評価されない状況にあったのだ。
努力が報われず、悶々としているときに出会ったのがダイキチ・ドットネットと同じような中堅・中小SIerの有志が集まるJASIPA(日本情報サービスイノベーションパートナー協会)の有志メンバーだった。池田社長と同じような課題や悩みを抱えている経営者が多くいて、彼らもまた中堅・中小SIerのビジネスを、よりよい方向に変えていく熱意と意欲に溢れていることに深く感銘を受けた。
長野に本社を移転、Scalaで再挑戦
体調も回復してきた2010年頃から、持ち前のJavaの技術を生かせるプログラミング言語Scalaに可能性を見出すようになる。Scalaはスイス発祥のプログラミング言語で、Javaに比べてコードの数が半分、場合によっては3分の1に抑えられるのが特徴だ。「コードが短いことで生産性が高まるとともに、バグもみつけやすくなる」と、納期短縮やコスト削減、品質向上に威力を発揮する。
中堅・中小SIerが勝ち残るには、大手とは違うことをしなければならないとJASIPAで学んだ池田社長は、近県の長野県に顧客をもっていたことがきっかけで、長野への本社移転を決める。長野は精密機器メーカーが多く、IT人材の基盤もある。東京から近いこともあって、首都圏で受注して長野で開発する「ニアショア」も盛んだが、池田社長は「単価が安いだけのニアショアは絶対に避けるべき道」との信念をもち、生産性の高いScala言語を携えて長野の地場SIerとの協業の可能性を探る道を選んだ。
長野の地場SIerが中心となって今年4月に設立したグローバルICTソリューションズ協同組合などと連携しつつ、Scala言語をはじめとする技術面で協力を進めている。東京でScalaの優秀さを声高に叫んでも、他の数多くのベンダーや技術のなかにどうしても埋もれてしまう。長野であれば膝をつき合わせてじっくり技術談義ができるし、Scalaに対する注目度も集まりやすい。実際、向上心の強い長野の地場SIerのScala言語に対する関心は高く、自社の技術者に習得させたいという引き合いも増えている。
生産性や品質を高めることで「値段だけで勝負するのではないソフト開発」(池田社長)を実現することで、ダイキチ・ドットネットの池田社長自身も第二の創業の地である長野でこれまで以上に存在感を高めたいとしている。