インターネットは、シンプルなStupidネットワークが、エンドノード間での透明なデジタルデータの送受信の環境を提供することで、さまざまなサービスやビジネスを持続的に創生・創成する環境を構築した。この、エンド・ツー・エンドシステムは、クライアント/サーバー型(C/S型)とピア・ツー・ピア型(P2P型)を、行ったり来たりしている。新しいサービスがP2P型で切り開かれ、ビジネス化の過程でC/S型へと変化・進化するサイクルである。現在は、軽い{一般ユーザー}エンドと、賢い&重い{あちら側}エンドの構造になっている。このような形態は、「ベンダー・プロバイダ主導」のシステム形態である。
このベンダー・プロバイダ主導の構造は、「PUSH型」の Supply-Chain をつくることになる。この Supply-Chainの最適化が、最近では先進的なIndustry 4.0と認識されている。Supply-Chainは、工場内、企業内、さらに企業間・業界間まで含む。しかし、依然として、PUSH型であり、ベンダーやプロバイダが、そのChainを形成することになっている。しかし、需要側の状況を十分には反映していない自身の生産計画にもとづいて生産が行われ、営業が売りさばくことで、予実の帳尻を合わせている場合が一般的ではないだろうか。
すなわち、「ベンダー・プロバイダ主導」の状況を、「ユーザー主導」にすることが、実は、Industry 4.0の本当のゴールである。ユーザーの需要・要求をもとに、Supplyシステムを管理・制御する、つまり、Supply-ChainではなくDemand-Chainの構築である。このような環境では、ユーザーとベンダーが密接にシステムの技術仕様を定義するDev-Opsと呼ばれる状況へ変革することで、より小さなコストで迅速かつ容易に、各エコシステムの高度化・効率化・安定化を実現することが可能となる。
このような動きは、すでに、データセンター業界においてみられる。FacebookによるOCP(Open Compute Project)やGoogle/IBMによるOpenPOWER Foundation、中国のアリババやテンセントなどのOTT(Over The Top)プレーヤーによるScorpioである。これらは、OTTがユーザーとして、ユーザーが必要とする機器・システムを、ユーザーとベンダーが連携・協力して設計・実装、導入する新しい構造なのである。
東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授 江﨑 浩

江崎 浩(えさき ひろし)
1963年生まれ、福岡県出身。1987年、九州大学工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年4月、東芝に入社し、ATMネットワーク制御技術の研究に従事。98年10月、東京大学大型計算機センター助教授、2005年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。東大グリーンICTプロジェクト代表、MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC副理事長などを務める。