劇団の俳優や演歌歌手として、若い頃に芸能活動をしていたORCASの貝瀬幸敏・代表取締役。その芸能活動の経験を生かし、ORCASでは映像制作の事業も手がけている。映像制作はシステム開発よりも元請けの仕事を獲得しやすく、それをきっかけにシステム開発においても元請けの案件を獲得するのが、その狙いである。また、SES(System Engineering Service)においては、「案件ベースでは提案しない」というこだわりをもっている。さらにもう一つ。ORCASは、自衛隊から未経験の人材を獲得するというユニークな取り組みを行っている。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 ORCAS(オルカス)
所在地 東京都中央区
資本金 300万円
設立 2004年7月
従業員数 10人
事業概要 システム開発事業、映像制作事業、キャリア開発事業
URL:http://www.orcas.jp/
顧客の組織をプロデュース
貝瀬幸敏
代表取締役
大型のシステム開発案件では、元請けとなる大手SIerがいて、下請け、孫請けといった階層構造のプロジェクトチームを組織するのが一般的。そのため、SESを事業の中心とする企業は、案件ごとに必要となる人材を供給している。
そうした開発案件で求められる人材は、「Java経験者」「プロマネ経験者」など、即戦力が一般的。スキルが合わなければ、受け入れてもらえない。かといって、下請けや孫請けのSIerが常に最適な人材を供給できるとは限らない。その結果、IT業界では慢性的なエンジニア不足が続いている。
「開発案件が完了すると、エンジニアが現場からリリースされる。すぐに次の案件がみつかればいいが、簡単ではない。マルチに対応できるエンジニアを確保するのも難しい。そのため、当社では創業時から案件ベースの提案はしていない」と、貝瀬代表取締役は同社の方針を語る。
案件ベースでなければ、どうやってSESを提案するのか。貝瀬代表取締役の答えは、「お客様(SIer)の組織構成をプロデュース」である。
例えば、新卒の社員を10人採用する計画があるとする。貝瀬代表取締役は、そのSIerの人事部に対し、新卒採用を8人にして、残りの2人の枠にORCASが人材を提供するという提案をしている。新卒採用と同様、長期の計画でSESを提供するというわけだ。本人が希望すれば、そのSIerへの転籍も認めている。
自衛隊から人材を確保
貝瀬代表取締役は、前職でもSESを手がけていて、採用や研修を担当していた。当時、新人の研修の一環として、自衛隊への体験入隊を採り入れることを考えた。そのときに知ったのが、自衛隊には任期制の自衛官がいるということ。陸上自衛隊なら2年、海上自衛隊と航空自衛隊は3年の任期で、以降は延長試験を受けるか就職するかを希望することになる。自衛隊に就職先を探している自衛官がいるというわけだ。
また、自衛官として1年以上勤務すると、「即応予備自衛官」という特別職国家公務員の立場で民間企業に就職することができる。採用した企業と本人に給付金が支給されるというメリットもある。即応予備自衛官は、年間30日間の訓練が必要とされるが、土日で対応できるため、日常業務への影響は少ない。有事の場合には召集されることになるが、過去の実績は東日本大震災の出動が唯一だという。
「各地の自衛隊で会社説明会を実施すると、常に応募がある。そのため、人材は常に確保できる」。自衛隊では在籍中に資格を取得できるため、IT系を勉強する自衛官も少なくないという。こうしたことから、ORCASでは人材の多くを自衛隊に求めて、顧客であるSIerの人事部に提案している。ORCASの方針を受け入れる企業は限られるが、案件ベースではないため、長期の契約に結びつきやすく、結果的に同社の経営の安定化に貢献している。
映像制作で元請け案件を獲得
ORCASでは、映像制作をもう一つの事業の柱としている。芸能活動の経験がある貝瀬代表取締役は、撮影現場などを知っていることもあって、創業当初から映像制作の事業を考えていた。
「システム開発で元請けの案件を獲得するには、ある程度の企業規模がないと、エンドのユーザー企業との接点をもつことができない。映像制作ではエンドからの直接の発注が多い」ことから、貝瀬代表取締役は、映像制作をきっかけとしたシステム開発案件の受注に取り組んでいる。少しずつ実績も上がっているという。
とはいえ、映像制作はシステム開発のためだけの事業ではない。「売り上げの半分は、映像制作にしたい」と、貝瀬代表取締役。事業の柱としてしっかり育てていく考えだ。