世界が注目する町工場。そのIT企業バージョンとでも表現すべきだろうか。高松市に本社を置き、組み込みシステムを中心に事業を展開しているのがコヤマ・システムである。同社が開発した高速カメラを活用する見える化ツール「Rekamo」シリーズは、トヨタ自動車をはじめとする大手メーカーで活用されている。同社は創業時から制御系ソフトウェアの開発に注力してきているが、メーカーからの受託がメインだった。現在も受託開発は事業の柱だが、経営基盤の安定化を目指し、自社製品の開発にも注力している。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 コヤマ・システム
所在地 香川県高松市
資本金 1000万円
設立 1989年
社員数 18人
事業概要 組み込みソフトウェア開発、アプリケーション開発
URL:http://kym-sys.co.jp/
組み込みで技術力を磨く
コヤマ・システムは、通信機器などの保守を手がけていた小山敏則代表取締役(CEO)が独立し、設立した会社である。その経緯から、当初はハードウェアの保守を事業の柱としていたが、部品在庫を抱えるには資金が必要なことから、組み込みシステムの開発にシフトした。「アセンブラが自分にあっていた」と小山代表取締役。以降、地元のメーカーからの委託により、工場用機械の組み込みシステムを開発しながら、技術力を磨いてきている。製造の現場では、ファクトリーオートメーション(FA)への取り組みが進んだこともあり、コヤマ・システムのビジネスは順調に拡大してきた。
小山敏則 代表取締役(CEO)
転機となったのは、リーマン・ショックである。「不景気になると工場では設備投資を抑えるため、工場用の機械はすぐに影響を受けることになる。当時の売り上げは1社に依存していて、営業担当者がいなかった。新規顧客を開拓したくても、どうしたらいいのかさえわからなかった」と、小山代表取締役は当時を振り返る。機械が売れなければ、組み込みシステムの開発案件も減ってしまう。1社依存は経営的にはラクだが、リスクも大きい。リーマン・ショック以降、コヤマ・システムは顧客数の拡大を目指し、自社製品の開発に取り組むようになる。また、営業体制も整えた。
二つの自社開発製品が軌道に
コヤマ・システムはこれまで、五つの自社製品を開発した。「うまくいったのは、そのうちの二つ」(小山代表取締役)で、一つは高速カメラを活用する見える化ツールのRekamoシリーズ、もう一つは酪農家向けの削蹄電子カルテ「削レポ」である。
Rekamoシリーズは、知人から高速カメラを紹介されたことがきっかけ。当初は、大手製造業の生産ラインを監視するシステムとして開発した。この実績を展示会やホームページで紹介したところ、問い合わせがくるようになったという。「カメラを活用した監視システムに何回もチャレンジしたが、うまく動かないという問い合わせもあった。そこは当社のシステムにしてから、順調に稼働している。操作がしやすいなどの評価もいただいている」と、小山代表取締役は自信をもっている。Rekamoシリーズは、カメラに依存しない汎用的なつくりになっているため、常に最新のカメラを導入できる。
Rekamoシリーズの特徴は、高速カメラを使用することで、人間には見えないものを見える化するところにある。しかも、その画像データをリアルタイムで解析し、不良品かどうかなどを判断して、別のシステムにデータを渡すといった処理ができる。人間が担っている検品などの作業を削減できるというわけだ。ちなみに、トヨタ自動車からは、商品力向上に貢献したとして、2015年12月に表彰されている。また、翌年にはトヨタ自動車のグローバル仕入先総会において技術開発賞を受賞している。
もう一つの削レポは、乳牛の爪を切る際に使用する電子カルテシステム。足の傷に対して処置した内容などの記録ができる。酪農家はこうした情報を手書きメモで管理しているが、システム化したいという要望があると紹介されて開発した。「ニッチなソフトだが、需要はある。今後もこうしたニッチだが確実な需要がある製品を開発していきたい」と、小山代表取締役は考えている。
自社製品が軌道に乗りつつあるなかで、課題となっているのが人材の確保である。「これまでは新卒採用のみで、社内で育成するという方針だった。ただ、最近は新卒の採用が難しい。これまでやっていなかった中途採用も考えているが簡単ではない」(小山代表取締役)。OA系と違い、FA系では即戦力となる人材が少ないという。同社の技術力に対する評価が、新規顧客を惹きつけたのと同様に、人材も惹きつけるきっかけになることが期待される。