脱SES(System Engineering Service)を目指すSIerは多い。SESにはエンジニア数に応じた売り上げが見込めることや営業担当の人員を最小限にできるなど、多くのメリットがあるものの、客先に常駐している社員の帰属意識が希薄になるという問題があるからだ。脱SESを実現するにあたっては、パッケージ製品を自社開発するというのがよくあるケース。ところが物流システムを手がけるKITOHAは、逆方向を志向している。いつかはSESへ。SEの実力は、SESによって育まれるとの想いがあるからだ。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 KITOHA(キトハ)
所在地 東京都品川区
資本金 7300万円
設立 2013年7月
社員数 10人
事業概要 受託開発、製品・サービスの開発、客先常駐
URL:http://kitoha.jp/
物流システムに強いSIer
遠藤直樹
代表取締役社長
KITOHAは、会社設立から3か月後には物流企業による業界団体「日本3PL協会」に加盟するなど、物流分野を強みとするSIerである。設立は2013年7月。創業メンバーの一人が物流業界に詳しく、業界に精通する独立系SIerが少ないことから、そこにチャンスを求めた。
「大手物流企業はIT系子会社を抱えており、巨大な予算を使ってシステムを開発している。一方、中堅・中小規模の物流会社には同様の投資をするような体力がないことから、システム化が遅れている」と、遠藤直樹代表取締役社長は物流業界の実情を説明する。
KITOHAでは、中堅・中小規模の物流会社を対象に、大手物流企業が利用するシステムと同等のサービス提供を目指している。それが可能な理由として、遠藤社長は次のように説明する。
「クラウドやスマートフォンなど、物流システムを構築するにあたって必要なインフラが世の中に揃っている。むしろ、スマートフォンは物流の現場で活用されてきたハンディターミナルよりも、多機能で使い勝手がいい。そうしたインフラを有効活用すれば、以前ほどのIT投資をしなくても、十分なサービスを構築できる」。大手企業が利用するシステムと同等の機能を安価に提供する。それはクラウドサービスの特徴でもある。
KITOHAは現在、自社開発の配送品質担保システム「ニナウ」を中心に、ビジネスを展開している。
SESのための自社開発製品
自社開発のサービスに注力しているKITOHAだが、遠藤社長は将来的にはSESにも注力したいと考えている。それは次の理由からだ。
「エンジニアを単なる頭数として提供するのではなく、エンジニアがスキルを身につける場として、SESを考えている。SESでは設計の一部を担ったり、技術的な裁量を与えられたりするなど、SEの役割が求められるからだ。また、ビジネススキルも身につけることができる。テクニカルなトレンドを追うのは技術の陳腐化が早いため、疲弊しがち。ビジネススキルであれば、さまざまな開発現場で生かすことができる」。また、若いうちにSESを経験しておいたほうがいいとも語っている。
遠藤社長自身も、SESを経験している。その頃に経験したリーマン・ショックが、SESの重要性を認識するきっかけにもなった。「リーマン・ショックで開発案件が凍結され、組織の人員を削減された。本来であれば、SESで常駐していた私が最初に契約解除になるところだが、スキルを評価されて残ることに。そのときにSEとしての価値が、SESでわかると実感した」と、当時を振り返る。受託開発や自社開発では、第三者の評価が得られず、社外で通用する人材かどうかがわからない。SESであれば、SEとしての評価軸が得られるというわけだ。そして、「今は終身雇用の時代ではないため、社内で通用するだけでは意味がない」とも付け加える。
SESの必要性を自身の経験を踏まえて説く遠藤社長だが、KITOHAではサービスの自社開発と受託開発が事業の中心となっている。SESに取り組んでいないのは、エンジニアの確保が難しいからである。
「SIerとして特徴がなければ、エンジニアが当社のような規模の会社を就職先に選ぶことはほとんどない。まずはどのような強みをもつ会社かを明確にするために、物流分野でサービスを自社開発する必要があった」と、遠藤社長は語る。自社サービスが軌道に乗ったら、いずれはSESに取り組むことを考えている。SESと社内開発の両方を行き来することで、エンジニアのスキルを磨き、社内も活性化させていくことを志向している。SESだけでは帰属意識が希薄になることも、しっかりと意識してのことである。
遠藤社長はまた、物流分野に強いSIerとしての地位を強固なものとするために、AIを活用したサービス展開も構想している。候補の一つは、配送を最適化する経路計算。ベテランドライバのデータを収集するための環境は整っているため、近い将来には実現できると考えている。