8月の末に高齢者施設を運営する友人たちと滋賀県の東近江市にある茗荷村を訪ねた。茗荷村は、行政区の名前ではなく知的障がい者と一緒に暮らす人たちが集まっているエリアの名前だ。田村一二という知的障がい児教育の先駆者が書いた架空の村の物語『茗荷村見聞記』(1971年/北大路書房)に賛同した人たちが集まって、82年にスタートしたムーブメントで、今注目を集めている。
みんなが少しずつ異なることを受け入れて、大らかに生きる生き方は、ダイバーシティやインクルージョンと呼ばれ、海外では多くの地域や企業が取り入れている。混ぜることは必然的に高度なケアの技術を必要とするが、ケアすべき点に目を閉ざすより取り組みがいのある仕事だ。
先日、米国に住む友人がAmazonの音声認識AI「Alexa(アレクサ)」を使っている様子を動画でみせてくれた。ミチオ・カクが2012年に書いた『2100年の科学ライフ』(NHK出版)が、17年時点において、すでに開発の初期段階、あるいはプロトタイプができてきていると感じた。
茗荷村見聞記も2100年の科学ライフも、世の中にまだ出現していないことを、兆候や「こうあらねばならない」という思いをもとにシーンとして描き、人々に伝えている。読んだ人々は、夢を共有し、開発に取り組み、そしてやがてそれは現実化する。
新しいしくみやサービス、そして製品の開発にはリードするストーリーが必要だ。アラン・ケイの描いたダイナブックのイラストは、後のノートPCの開発に大きな影響を与えた。
未来は「未だ来ぬ」と書く。だからこそ、自分自身で未来を描き、そして現実化していくことが大切だ。誰かが書いた未来ではなく、自分自身が描いた未来。実現した時に、自分のまわりの人や社会がどう変わるのかを描いてみる。どんな人たちが、どんな表情で喜んでいるのかを想像してみる。
夢物語に終わらせぬために、実現までの5年刻みの年表と、実現のカギとなる要素を書き出してみる。すると夢は少し現実味を帯びてくる。自分の描いた夢をまわりの人に語り、仲間を増やす。このようにして、夢はいつの世も現実化していく。あなたの夢もストーリーに落としてみよう!
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。