京都府で、小規模ながらもそれぞれ強みをもつSIerが連携して新しい製品・サービスをつくる動きが出てきた。7社が集まって、「京都」「ICT」をキーワードに新たな協業モデルを構築。それが「京なかGOZAN」だ。これまで京なかGOZANの連携は緩やかなものだったが、新しいステージに踏み切るため、今年8月には京なかGOZANで開発する製品・サービスの企画、プロモーション、運営を行う会社として「京なか」が設立された。地場に根づいたビジネスを展開しながら、この協業モデルを他地域に横展開することも目指している。(取材・文/佐相彰彦)
SESでは強みがわからなくなった
桂田佳代子
代表取締役
京なかGOZANに参加するSIerは、現段階でシステム創見、エイジシステム、システムプロデュース、ピーパルシード、ジック、ソフトウェアクリニック、トムの7社。もともと連携が始まったのは2010年で、「SESなどの請負では強みがわからなくなってきた。自ら製品・サービスをつくっていこうという考えから、グループ体制を敷くようになった」と京なかの桂田佳代子代表取締役は振り返る。
これは、リーマン・ショックの影響で請負案件が激減したためだ。できるだけ低コストで受注しなければ、案件が獲得できなくなる。中小SIerが次々と業績悪化に陥った。しかも、中小SIerが1社だけでさまざまなユーザーニーズに応えて製品・サービスを独自に開発するのは限界がある。競争して体力勝負を続けるよりも、協力して新たな世界を切り開いたほうが得策と判断したのだ。ただ、連携といっても急に強固なものになるわけではない。「まずは、技術力とアイデアを持ち寄って意見が一致すれば、『じゃあ、開発してみようか』といった緩やかなつながりのほうが取り組みやすい」。こうして、京なかGOZANが形成された。
参加するSIerがそれぞれの強みを発揮したのが12年で、クラウド上で見積・図面(PDF)が管理できる中小製造業向けサービス「見積・図面GOZAN」の提供を開始した。初期費用が10万円、月額利用料が5000円の低価格を武器に、徐々にではあるがユーザー企業を獲得していった。いまでは、100社以上への導入実績をもつ。
また、京都府内の事業所向けにセキュリティサービスを提供。標的型攻撃メール訓練をはじめ、サーバーやPCの監視などの機能を用意している。情報セキュリティ対策などに関する相談を受ける産学公連携組織「Ksisnet(京都中小企業情報セキュリティ支援ネットワーク)」とも連携した。
このほか、アパレル業向けオンラインストレージやヘルスケア向けカルテ管理など、業界に特化したクラウドサービスを開発。どのサービスも、BtoBを対象に据えていた。
京都の地域活性化につなげる
しかし現在は、BtoBだけでなくBtoBtoC向けのサービスも提供している。地域と外国人観光客をつなげるIoTをベースとした「KoI(Kyoto omotenashi for Inbound)サービス」だ。桂田代表取締役が企画したサービスで、女性起業家応援プロジェクト「LED関西」で16年にファイナリストに残った。発信器とスマートフォンを使って、京都府の店舗と外国人観光客を結びつける。外国人観光客がアプリをダウンロードして個人情報を事前に入力、発信器を店舗や宿泊施設、観光・交通要所などに設置して、例えば、店舗なら来店して欲しい外国人観光客にターゲットを絞って自動でクーポンや広告、店舗への誘導情報などを配信できる。発信器の設置は無料で、情報が配信できた際に広告配信で1件あたり5円から、来店したら1件あたり100円の利用料を支払う。10月から試験的に提供を始め、18年3月までは100社に限って無料でサービスを試すことができる。
KoIサービスをはじめ、これまでに複数のサービスを商品化したことから、京なかGOZANの参加SIerが本格的に協業する体制を敷くため、各サービスの企画やプロモーションなどを行う会社として京なかを設立した。京なかGOZANで代表を務めていた桂田氏が代表取締役になった。「京都のSIerが連携して商品化した製品・サービスを全国的に広めていきたい」との考えを示している。
現在、京なかはKoIサービスの普及に向けてモニター集めに奮闘中だ。競合同士の協業は簡単に実現するとはいい難いが、製品・サービス化を実現してビジネスが軌道に乗れば参加企業同士のパートナーシップはさらに深まっていく。しかも、参加企業を取りまとめて製品・サービス提供の拡大に取り組む京なかの設立で、さらに全国区でのビジネスが展開できる可能性を秘めている。桂田代表取締役は、「京なかGOZANのビジネスモデルをさらに強固なものにして、他地域に横展開していく」ことを目標に据える。