鹿児島県の奄美大島には、地元の公共団体からのシステム開発や、都市部からのニアショア開発を担う複数のSIerが存在する。かつては、各社がしのぎを削って地元の案件獲得に動いており、過度な価格競争になりがちだった。一方、島内SIerの多くは、都市部の大型案件を獲得するほどの体力をもっていない。改善策に取り組まなければ、島内のIT産業は衰退してしまう。そこで立ち上がったのが、ウイングジャパンの福山洋志代表取締役。奄美情報通信協同組合を設立し、組合として案件を受注できる態勢を整えた。(取材・文/畔上文昭)
Company Data
会社名 ウイングジャパン
所在地 鹿児島県奄美市
設立 2004年11月
社員数 3人
事業概要 システム開発、教育業
少数精鋭でシステム開発
福山洋志
代表取締役
ウイングジャパンの設立は、2004年11月。都心でシステム開発に携わっていた福山代表取締役が、奄美大島にUターンして立ち上げた。同社は設立当初から地元企業のニーズに応えるかたちでシステム開発に取り組んできており、そこから汎用性のあるシステムをパッケージ化し、横展開している。
少数精鋭でシステム開発に取り組んできた同社だが、都市部の大型案件を獲得できないという課題があった。エンジニア数を増やすことができればいいが、島内で人材を確保するのは容易ではない。
頼みの綱となるのは地方自治体などの公共団体の案件だが、地元SIerで奪い合いとなるため、価格競争になりがち。ウイングジャパンとしては、積極的に入札に参加するという状況ではなかった。また、島内SIer各社も、似た状況にあった。
組合を窓口に案件獲得
エンジニアを確保するにあたって、まずは島内のIT産業を活性化する必要があると考えた福山代表取締役は、10年6月に自らが発起人の一人となって、奄美情報通信協同組合を設立。代表を務めている。同組合は現在、個人会社を含めると、20社が会員として参加している。
同組合の役割は、組合としてシステム開発案件を請け負うこと。1社ではできない仕事を会員企業に振り分けることで、大型のシステム開発も担えるというわけだ。
「自治体の案件は、入札価格のたたき合いになっていた。案件が大型であれば、島外のSIerにもっていかれてしまうことも。地元の案件は地元のSIerで担いたい。組合はそのためにつくった。組合では各社が抱えるエンジニアのスキルを共有し、案件に応じた開発体制がとれるようになっている。奄美大島という限られた世界だから可能なことで、都会ではできない」と、福山代表取締役は組合の強みを語る。現在では、地元自治体の案件だけでなく。都市部の案件も担うようになっている。今後もニアショア拠点としての奄美大島をアピールし、開発案件を積極的に獲得していく考えだ。
福山代表取締役によると、「島外で活躍している奄美大島出身のエンジニアが、ある程度の年齢になると、Uターンを希望するようになる。ただ、島内SIer各社の受け入れ態勢が十分ではなかった。組合を設立して以降は、島内にIT産業が根づいていることをアピールしやすくなっている」との効果があったという。
専門学校で人材を育成
福山代表取締役は、地域でエンジニアを育てることを目的として、02年に「奄美情報処理専門学院」を設立し、学校長に就任。2005年には「奄美情報処理専門学校」と改め、専修学校としてエンジニアの育成に取り組んでいる。なかには島の暮らしを求め、島外から入学してくる生徒もいるという。
エンジニアの育成を担う専門学校だが、福山代表取締役は「卒業生はすぐに島内のSIerで活躍してほしいところだが、島内では経験できる範囲が限られてしまう。学校としては、生徒が都市部に就職し、顧客の顔が見えるところでさまざまな経験を積んでほしいと考えている」と説明する。この方針のもと、卒業生が都市部のSIerに就職できるように支援している。そして、将来的にUターンを希望したときには、奄美情報通信協同組合をはじめ、島内の各SIerが受け皿になるというスタンスである。
「親の世代に島内のIT産業があまり知られていない。エンジニアとして働く子どもを呼び戻す受け皿があると知れば、Uターンの数も増えるはず」と、福山代表取締役。今後は島内に向けたIT産業のアピールにも取り組んでいく考えだ。