「髪を切る店を変えるのって、抵抗ありますよね」。情報の偏在についての話は、奄美大島にある馴じみの美容室での美容師さんとの話から始まった。こんな髪質で、頭の形はこうで、こんな髪型にしたいなどの初期情報の交換には手間がかかる。さらに、美容師の腕と人あたりはお客の側としては気になる。
美容師さん曰く、「近頃、観光客は増えてきたが、その影響は美容室の売り上げにまだ影響はない」。「広告を観光客向けのフリーペーパーに出すことに集客効果は望めるのか?」。そこから、「旅先で髪を切る人がいるのだろうか?」という話になっていった。
「そういえば、このあいだ来た親子連れの観光客の方は、旅先で、まず美容室に行って1cm髪を切り揃えているって言ってました」。お母さんと娘さんは、旅行が好きで海外を含め、いろいろな場所に旅をするとのこと。美容室に行くのは髪を切るのが目的ではなくて、土地の情報、観光情報誌に載っていない地元の人ならではの行くべき場所の情報を聞くためだそうだ。
確かに美容室は、髪を切りに行くだけの場所ではない。リラックスしたり、街の情報を仕入れたりできる空間だ。美容師さんのもとには、街中のお客様からの情報が集まる。まずは、旅の初めに美容室に行き、ゆったりとした時間を過ごしながら特別な情報を仕入れ、そこから行動を開始する、なんと合理的な行動パターンではないか。
世の中のすべての情報はインターネットに公開されていると思いがちだが、クローズドなネットワークやインターネットに載っていない情報もたくさんある。誰に聞けばよいか? どこに行けばわかるのか? それを知っていることが重要である。
旅行の情報だけではない。物流データのデータ互換ならこの人、データベースの正規化に関してはこの人、サーフカルチャーのイベント系ならこの人という専門の分野に通じている人とのコネクションは、重要だ。
誰でも知り得るインターネット上の情報だけでなく、人を介したそこにしかない情報を得るためにも、出かけて人と会おう。そして人と会話をしよう。そうしたリアルなコミュニケーションがこれからはさらに価値を生む。有益な情報は、今でも、そしてこれからも偏在するのだ。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
略歴

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。07年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。