著作権法で保護される対象を著作物というが、著作物というとき、一般には、写真や文章、音楽や絵画といったものを思い浮かべるだろう。BCNの読者である開発系のベンダーとしてはプログラムだ。ところが、これらの著作物のほか、情報やデータを素材として編集した「編集著作物」というものも著作権法に規定されている。百科事典や新聞や辞書などが例として挙げられるが、これらは個々の素材とは別個に編集物全体が保護されるのだ。
編集著作物として保護されるためには、どのような情報を収録するか(素材の選択)、その並べ方をどのようにするか(素材の配列)、のいずれかに創作性が必要である。つまり、編集物を著作物たらしめるためには情報の収集・分類・取捨選択という「目利き」や情報の配置の工夫という「見立て」などの行為が重要となるのだ。
私は、大学で学生に著作権を教えているが、学生と接していて感じるのは、どうしても自分の専攻や興味を持つ著作権にしか、関心を示さないということだ。自らが生み出す個々の素材としての著作物の価値を知ることはもちろん大事だが、他人の生み出す著作物への理解や編集著作物のもつ価値や保護の対象を知ることで、著作権から離れたところの情報の取捨選択や活用の大切さも学んでほしいと考えている。このことは、企業にとっても、企業人にとっても、ビッグデータを活用する現代のビジネスおいても、とても重要な視座である。
コンテンツでも商品にまつわるストーリーでも、市場で価値を生み出す情報を自ら創出することの重要性はもちろんだが、社会のいたるところに存在する情報(これは著作物に限らないデータや事実をも含む)を収集、分析し、活用することでも、その情報に価値を生み出すことができるのだ。
言い換えれば、超情報化社会を生き抜くためには「編集著作物的思考」が必須であるといえよう。
読者の皆さんの企業ではどうだろうか。改めて、著作物や情報の利活用を通じた自社の「強み」を再確認・再構築してほしい。個々の情報だけではなく、編集著作物という視点で情報の集合体を扱うとき、それぞれの企業にとって大きな価値を生み出すことに気づくのではないだろうか。
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕

久保田 裕(くぼた ゆたか)
1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。