東京を除く自治体では、移住・定住促進に力を入れている。自治体にとって人口は力であり基盤である。少子化の傾向は全国的に変わらず、東京への人口集中がさらに地方の人口減少に拍車をかけている。
私は鹿児島県奄美市で産業支援の仕事をしているため、全国各地から奄美に移住してきた家族に、その経緯を聞く機会が多い。最近聞いている移住のきっかけのトップ3は、(1)子どもができた際の子育て環境を考えての移住、(2)地方での自然豊かな暮らしを求めての移住、(3)通勤が嫌になっての移住だ。
移住者には、何年も計画を立てて実行する人は少なく、ある時、あることでスイッチが入り、移住を決意する。通勤が嫌になっての移住を、私は「脱・通勤」と呼んでいる。ビジネス誌の特集タイトルのようだが、この呼び方が一番しっくりくる。脱・通勤で移住する人たちはある日、満員電車のなかで「こんなことを、毎日繰り返すことに何の意味があるのだろうか?」「満員電車での移動で、どれほどの付加価値がもたらされているのか?」と疑問を抱く。そして「そうだ、通勤をやめよう」と決意する。
決意すれば、あとは移住地を調査し、訪問して決める。どんな家族も移住のプロセスにそう大きな違いはない。なぜ、日本人は通勤を何とかしようと考えてこなかったのだろうか?なぜ、アウトプットを出しに行くために、あれほどストレスいっぱいの行動を続けているのだろうか?
答えは一つ。そこに行かないと「以前は」仕事ができなかったからだ。だから、地震がきても、何かの原因でいつもの交通手段が使えなくなっても、タクシーやバス待ちの列に何時間も並び会社に向かう。
物理的にモノづくりをする工場や、レストランのような飲食業は、これからも現場に行くことが必要とされる。「以前は」と書いたように企画、経理、法務、ライター、ウェブ制作などのデジタルで納品できる多くの仕事は、もはやオフィスに行く必要はない。
仕事場というところに行かないと、仕事モードにならない人はいるかもしれない。そうした人たちは、これからの時代に向けて、どこでも仕事ができるトレーニングが必要だ。早晩、事務系のオフィスはなくなる。脱・通勤の時代がそこまできている。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
略歴

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。