経済産業省が9月7日、「DXレポート~ITシステム《2025年の崖》の克服とDXの本格的な展開~」を発表した。デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるにあたって、既存システムを代えていかなければ大変なことになるという警鐘を、ITシステム刷新に向けてのガイドラインとしてまとめたものである。企業の基幹系システムの悲惨な状況に焦点を当て、このままでは2025年までに多くの企業でIT破綻が訪れ、DXどころではなくなると記載されている。
経産省の報告書としてはかなり思い切った内容だ。前回の本コラム「地方におけるITベンダーの役割とは」の中で基幹系システムをSIベンダーの都合で複雑化させ、化石化した地雷システムが放置されていることを書いた。まさに本報告書が指摘する25年の崖は、その根幹となる問題である。
ITベンダーが放置し、経営者が見ないふりをしてきたITシステムが、加速するDXの動きを妨げる。それが25年には12兆円の経済損失につながるという。25年までの間に、複雑化・ブラックボックス化した既存システムについて、廃棄や塩漬けにするものなどを仕分け、必要なものには刷新する必要がある。
本報告書で記載されている内容はまさにその通りで、多くの企業で同じようにブラックボックス化したシステムが放置されている。ではここで、ITベンダーがこれを解決する提案ができるのか? そこには注意する必要がある。本報告書を片手に営業マンが警笛を鳴らしながら、提案に行く。しかしそれは旧態然とした古いシステム設計のもので、新しい名前を付けただけになっていないだろうか。実際、私の関わっているプロジェクトでも、既存ベンダーの提案は今主流のシステム構造の意味を理解していないものばかりだ。本来あるべきシステムは、各機能が自律して疎結合で結ばれた構造になっていなければならない。
システムの一部を入れ替えても機能を付け加えても、既存のシステムに影響を与えないシステム、それが求められるDXに対応するITシステムである。それを分かった上で構造設計を行うことで初めて開発、導入、運用を一体化してスピードアップすることができる。これらの本質が理解されないままシステム刷新の議論が行われているのが実情ではないだろうか。ユーザーもベンダーも根底をきちんと理解し、抜本的に見直すことが必要だ。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。