日本情報技術取引所(JIET)関西支部は、関西地域におけるシステム開発案件を国内に発注するニアショア開発に取り組んでいる。関西地域の好景気により、システム開発案件が急増しているためだ。とはいえ、関西地域のJIET会員企業は、ニアショア開発やオフショア開発をあまり経験してきていない。ノウハウがないことから、まずはリスクの小さいニアショア開発に目標を定め、JIETの各支部で開催している商談会に出向き、働きかけを強化している。(取材・文/畔上文昭)
関西圏で開発案件が急増中
関西支部
岩下隆祐
支部長
首都圏の好景気に少し出遅れた感のあった関西圏だが、近年は活況を呈している。どこまで続くのかという懸念もあったが、経済効果2兆円といわれる2025年の大阪万博が決まり、好調な経済がしばらく持続するムードとなっている。このことは、システム開発案件にも表れている。
「関西支部の会員企業は、これまでエンジニア不足で失注するようなことは少なかったが、システム開発案件が増えてきて、いよいよその状況になりつつある。エンジニア不足は、本当に危機的な状態。案件増となったのは関西の経済が好調ということもあるが、それだけではない。IoTやAIなどの新しいテクノロジーにより、さまざまな分野でITを活用する範囲が広がってきている。大阪万博の追い風もあるだろうが、基本的にはITを活用する範囲が広がってきているのだと捉えている」と、関西支部の岩下隆祐・支部長は現状を分析し、この好調がしばらく続くと考えている。
国内の労働人口が減少傾向にあり、IT業界に限らず、人材を確保するのが難しい状況が続く。そこで関西支部で始めた取り組みが、ニアショア開発の推進だ。
「関西支部では会員企業同士が人材を融通し合ってきたこともあり、ニアショア開発やオフショア開発に慣れていない。また、JIETの各支部は、首都圏のニアショア開発が中心で、関西のことを意識してこなかった。まずは、関西支部がニアショア開発の発注を始めるとアピールするところから取り組んでいく」と岩下支部長。ニアショア開発の請け負いに慣れている支部から、発注元としての在り方を学びつつ、ニアショア開発の取り組みを活性化していく考えである。
ニアショア開発の推進に向けて各支部の商談会で関西支部をアピールする岩下支部長
全国組織というJIETの強み
JIETでは、東北支部や北陸支部がニアショア開発の請け負いに注力している。主に首都圏をターゲットとしてきたが、首都圏では発注側が常駐を求めるケースが多く、地方で働くことを希望するエンジニアとの間にギャップができている。関西支部は、その実情を踏まえた上で、ニアショア開発に注力していく考えだ。
「地方に就職するエンジニアは、都心に出ていくことを望まないケースが多い。ところが、首都圏の案件は『人がほしい』という状況で、案件の数の割にマッチしていないように感じる。そこで、ニアショア開発の発注元は大阪や名古屋という方向に持っていきたい」(岩下支部長)。JIETの東海支部とも連携しながら、ニアショア開発の活性化に取り組んでいる。
また、ニアショア開発は、オフショア開発のようなコスト削減を期待できないが、その点について岩下支部長は次のように考えている。
「オフショア開発は、人件費を抑えることができるものの、日本のシステム開発の作法が通じるかどうかなどの不安がある。言葉や商慣習の違いもあり、発注元に相応の体力がないと対応できない。そのため、関西支部では、まずニアショア開発に取り組んでいく。ニアショア開発に求めるのは金額ではなく、安心して発注できるかどうか。タイミングがいいことに、JIETの東北支部や北陸支部がニアショア開発の拠点となるべく動き出している。関西支部の会員は、開発案件を発注するためのノウハウがないので、東北支部や北陸支部からの協力を仰ぎながら進めていく。これができるのは、全国組織として活動しているJIETのメリットだ」。とはいえ、JIETでは海外支部の拡大にも注力していることから、いずれはオフショア開発を手掛けることも視野に入れている。
エンジニア不足解消策として始めたニアショア開発の発注だが、関西支部では会員企業が新たな一歩を踏み出すきっかけになることも期待している。