国のIT政策を読む~連載第3回目は、「キャッシュレス」を取り上げる。経済産業省が2018年4月に公表したレポート「キャッシュレス・ビジョン」と前後して、QRコードなどを使ったスマートフォン決済サービスが相次いでスタート。100億円規模の還元キャンペーンを大々的に展開したり、ポイント還元で実質的な値引きを行うなど、決済サービス会社の大型投資は記憶に新しい。国は2025年の大阪・関西万博までにキャッシュレス決済比率40%達成の前倒しを目指すとともに、将来的には世界最高水準の80%を目標に据えるとしている。(取材・文/安藤章司)
では、なぜこのタイミングで、国はキャッシュレスを推進することになったのか。キャッシュレス化は、大枠で見ると不透明な現金資産の見える化による税収の向上や、利便性向上による消費の活性化など国力強化につながるメリットがある。ただ、なぜ今のタイミングなのかは、“黒船、赤船の来航”の影響が大きいと経産省関係者は話す。黒船は米国のアップルやグーグル、赤船は中国のアリペイ(支付宝)やウィーチャットペイ(微信支付)といったスマートフォン決済大手プレイヤーを念頭に置く。
スマートフォンの開発・製造で世界をリードする米中では、世界に先駆けてスマートフォン決済サービスが立ち上がった。国内ではそうしたスマートフォン決済の基盤となるようなサービスが育っておらず、手をこまねいていては決済基盤が外資に牛耳られてしまう危機感が背景にある。過去の日本のキャッシュレスはクレジットカードが主流で、近年ではJR東日本のSuicaなど交通系ICカードの利用割合が増えている。全体で見ると、2017年時点で21.3%のキャッシュレス比率だった(図参照)。
スマートフォン決済は、オンラインでさまざまなサービスやコンテンツを即時提供できる点が従来のカード型の決済とは大きく異なる。ソーシャルメディアやゲーム、各種の生活便利アプリといったスマートフォン上で繰り広げられるさまざまなサービスと決済が渾然一体となって、新しい価値を創出。その価値を決済サービスの維持費に充てることで、決済手数料を限りなく安く、または実質無料にしている点も、従来型決済サービスとは構造の違いがある。従来型決済サービスが小売店舗などに負担してもらう決済手数料に依存していたのに対して、スマートフォン決済はデータから富を生み出すことを重視する。(つづく)