アップルのワイヤレスイヤホン「AirPods Pro」が発売された。AirPodsシリーズの最新機種で、アップル初のノイズキャンセリング機構搭載という点で注目されている。さまざまなサイトで競合製品との比較を見かけるが、対比されているポイントはノイズキャンセリングの性能はそれだけすごいのか?音質はどうなのか?といった点に集中している。もちろんそこがユーザーとしては大切なポイントだし、満足度に直結するのだから正しい。
しかし、私がこのガジェットを利用したときに感じた凄さは別のところにあった。AirPodsは音楽を聴くときにイヤホンを付ける、そして音楽を止めるときにイヤホンを外すという従来の利用方法の概念を無くそうとする視点で作られている。つまり、AirPods Pro は競合製品とはまったく目指すところが異なっている。xRの浸透した未来の生活スタイルを見据えた商品なのだ。競合他社にはない機能としてノイズキャンセリングのフェードイン・フェードアウトがこの体験をさらに進化させている。マイクが四つ搭載され、AirPods Proは音声入力と連携することで外部環境とシームレスに接続することを可能にしているのだ。
評価する側が評価項目としてあげているように、これまでは「音質」を価値としていたイヤホンだが、日常での使い勝手という「体験」に価値をシフトさせたのである。このAirPods Proが、現在開発中と噂されているグラス型ARへとつながり、視覚、聴覚から日常体験においてリアルとバーチャルの境目をなくしていくことになる。人々の生活を大きく変える可能性がある。
VR/MRは、視覚の拡張としていかに生活の中でグラスをかけることを自然にするかが注目されている。この製品は聴覚の拡張であり、付けたり外したりせずにバーチャルな情報をリアルな体験として、シームレスに連携する画期的な製品であると言える。
スマートスピーカーは日本では全く売れていないが、いちいちスマホで調べるやり方はもうなくなってくる。ちなみに海外ではスマートスピーカーの市場は拡大しているのだ。スマホの次に乗り遅れることがどんなに商機を失うことになるのか、過去に日本は体験したはずだ。全てのビジネスは視覚の拡張、聴覚の拡張がもたらすユーザーインターフェースのイノベーションを真っ先に考えておく必要がある。
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
略歴

渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。