新型コロナが日本社会に大変な影響を与えているが、その一方で収束後の社会をどうするかという議論も盛んになってきた。しかし不思議なことに、ポストコロナであまり議論されてない重要な事柄がある。

 一つは財政である。今年は当初予算108兆円のうち32兆円、その後の第1次補正予算で26兆円、第2次で32兆円、合計で90兆円の国債を発行している。これだけでフィリピンの国家予算の約10年分にあたる。

 もちろん100年に一度の感染症であるから、この予算組みを否定はしない。しかし欧米各国に比べて日本は、この後始末をどうするのかという議論があまりにも希薄だ。東日本大震災の時は復興特別所得税や議員、公務員の給料削減などいくつかの処置を行い、それなりの緊張感はあった。しかし今回はまったくない。GDPの2倍をはるかに超える世界で類を見ない借金大国なのに、そのことを忘れたかのようである。

 二つめは、生産性の向上である。OECDによる21年の経済見通しは、新型コロナ第二波が本格的に起きた場合ではあるが、先進国の中で日本だけがマイナス成長を予測している。生産性が上がらないと所得は増えない。所得が増えないと消費が増えない。消費が増えないからGDPが上向かないことになる。

 生産性を上げていない業種はともかく、例えばIT技術や医療、物流など、生産性は上げているが所得に反映されていないところは早急に改善すべきである。高度成長期は工場の生産性向上に伴い、あまり生産性が向上していないところも給料を上げた。現在はその逆で、生産性は上げても所得に反映されない構造が出来上がっている。この日本的構造を変えないと、先進国で唯一のゼロ成長国家は卒業できない。

 三つめは、先の大戦で実証済みだが、兵士にリスクは負わせるが保証しないという悪しき日本的風土がいまだに生きていることだ。新型コロナに対応する病院の医師、看護師、保健所の職員などは、リスクと隣り合わせの中で毎日懸命に働いている。

 しかし、彼らの努力に報いる報酬、待遇が考えられているかといえば多くはそうではない。これからは先の大戦の兵士のごとく愛国心、プロ精神のみで支える仕組みは終わりにし、戦国時代の武将のごとく汗を流した人をきちんと処遇する新たな日本モデルをつくるべきである。
 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。2001年から産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。