視点

事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦

2021/02/26 09:00

週刊BCN 2021年02月22日vol.1863掲載

 国を挙げてDXを推進することが必至であることは間違いない。しかし、自治体や政治家にもっと専門家がいない限り、この国はDXを進めていく機運になりにくいと感じている。

 オリンピック関連、持続化給付金関連、COVIT19接触感知システムなど問題となった受託ビジネス構造は、時代にそぐわない中抜きシステムの象徴で過去の遺物である。システム開発業界が抱える仕組みの問題といってしまうのは簡単だが、ここには発注者側の放り投げ体質と知識不足がある。

 接触確認アプリにしてもメディアのいう3億円で発注されているとするのなら、その価値に見合うアプリには思えない。もちろん小さな会社が受託した場合、何かあった時の責任や対応が取れないので、大きな会社にリスク込みでお願いしていくという考え方はわかる。しかし、3億円という見積額の説明を受けて、その価格妥当性をきちんと理解できる専門家が判断したのだろうか。

 3億円といえば小ぶりな金融機関のインターネットバンキングのパッケージくらいの金額ではないだろうか。この金額が妥当だとするなら、すごい秘密機能が搭載されているに違いないと思ってしまう(笑)。

 いずれにせよ、機能していなかったことの確認もできないような開発運用体制含め、ここはそろそろメスを入れるべきだ。テレワークが進み、伝言ゲームの中抜き構造を排除し効率よく進めていくようになり、これまで価値を提供しなかった役割はどんどんスリム化してきている。そのほうがコストも効率も高まる。SIerが利益を取ってはいけないということではなく、もっととることができるのである。何もしない会社や人が抜ければみんなの利益があがることになる。残念ながら日本のIT企業の生産性は世界的にみて高くない。またSIerという企業のIT部門を代替する業態も独特だ。

 今後は企業にIT部門がきちんと設置され、直接発注するようになる。もちろん商社がなくならないように、SIerもほかにはない価値が提供できればなくならない。最新の情報に基づくソリューションの提案やクライアントにはできない深い専門知識に基づくソリューションの提供である。民間企業はどんどんこの方向に進んでいく。国も中抜き構造をきちんと見直し、無駄なコストは省き、正当な利益を受益者にきちんとわたるようにメスを入れるべきである。 
 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。
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