視点

自治体DXに取り組む三つのアプローチ

2021/07/07 09:00

週刊BCN 2021年07月05日vol.1881掲載

 2021年9月に予定されているデジタル庁創設に呼応するかのように、この4月の組織変更で多くの全国都道府県、市町村にDX推進の部署が設置された。一応組織だけつくって中身は従来の電算室といったところもあれば、これまでのIT利活用とは異なるステージで本格的に全機能のトランスフォーメーション=変容を目指す意欲的なところもあるようだ。

 けん引役でもあるデジタル庁は、そのゴールとしてデジタル時代の官民のインフラを今後5年で一気呵成に作り上げることを目指すと宣言している。官民のインフラとは何かが、まだ具体的に書かれていないので、これから議論が進み、今後示される計画書には盛り込まれるのであろう。

 いくつかの自治体のDX推進計画策定をお手伝いする中で、取り組みテーマを大きく三つのアプローチに整理しているので紹介したい。

 まず一つめは、官民連携の仕組み作りだ。自治体のゴールはそこに暮らす住民や企業の幸福度が高まることなので、仕組み作りで終わってはならない。しかしながら、具体的案件の解決までは行政がやることではない。自助、共助、公助という分け方をするならば、共助が回る仕組みや場を仕掛けることが行政の役割だ。例えば、官民ラウンドテーブルを開催し、民間の方々の課題と行政の持つデータやネットワークを使い、新しいソリューションを作っていく。そのために必要なオープンデータ化にも取り組む。

 二つめは庁内業務の自働化、効率化である。ルールの明確化により短時間で的確な行政サービスを実現する。審査して落とすことが目的ではなく、いかに行政サービスを受けて豊かな暮らしを実現するか。そのためにはスピード化という尺度も欠かせない。今後、各行政機関の同じサービスで対応速度の比較が公開され、それが行政評価の一つとなるであろう。

 最後の三つめがデジタル社会の基盤整備である。マイナンバーによる本人認証、振込用の銀行口座やワクチン接種の有無などヘルスケア情報がインフラとして整備されなければ、迅速な行政サービスや「誰一人取り残さない」社会の実現は不可能である。そのためには個人情報保護やデータマスキングなど安心できる強固なデータセキュリティが重要だ。

 5年後の26年9月、日本全体がデジタルの力で大きく変容していることを期待したい。

 
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎
勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
 1964年2月生まれ。奄美大島出身。98年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。同年、ヤンマー入社、情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。NPO法人離島経済新聞社理事、鹿児島県奄美市産業創出プロデューサー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。
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